体重よりも体力低下が危ない

 しかし、中には「自分は運動不足だけど、体重が増えないように注意しているから大丈夫」と考える人もいるかもしれないが、その考えは捨てたほうがいいだろう。もちろん太りすぎのリスクは避けたいところだが、それよりも運動不足が招くリスクにも注意を向けるべきだと田村さんは言う。

 「体重が増えることよりも、体力(心肺持久力)が低下することのほうが総死亡リスクに大きく影響することがわかっています」(田村さん)。下のグラフを見てほしい。これは1万4345人の男性を約6年間追跡したときに、体重が増えることよりも、体力低下のほうがその後の死亡率に大きな影響を与えることがわかったのだ。

体重が増えるよりも、体力の低下のほうが総死亡リスクを増やす
体重が増えるよりも、体力の低下のほうが総死亡リスクを増やす
1万4345人の男性(平均年齢44歳)を対象に、6.3年間のBMIと体力(心肺持久力)の前後の変化とそれ以降11.4年間の追跡調査を行った米国の研究。体力が増加し、体重が低下した人の総死亡ハザード比を1とすると、体力が低下した人の総死亡ハザード比は高い値を示した。(データ:Circulation. 2011 Dec 6;124(23):2483-90.)*統計学的有意差あり

筋肉のメタボ化「脂肪筋」を減らすには運動が不可欠!

 どうだろうか。テレワークの普及、長引く自粛生活などにより、体を動かす機会が減り、活動量が減った状態は、体力や筋力の低下を促進させ、さらには死亡率にまで影響を及ぼすということだ。ここで重要になってくるのが、体を動かすこと、つまり日々の運動習慣ということだ。このことは、前回(『体形の問題ではない! 血糖値が上がりやすくなる「やせメタボ」の危険性』)紹介した「やせメタボ」の原因である「脂肪筋」とも密接に関わっている。

 おさらいになるが、前回記事ではメタボは肥満体形の人だけでなく、標準体形ややせ型の人にも起こること、その原因は異所性脂肪の一種である「脂肪筋」であることをお伝えした。エネルギーとして燃焼されなかった結果、脂肪細胞から漏れ出した脂肪が筋肉にたまるのがこの脂肪筋だ。

 脂肪筋は筋肉で糖を取り込むスイッチとなるインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)を作ると考えられている。これが進行すると糖尿病を引き起こすことになる。

 脂肪筋が悪さをして、インスリンを効きにくくするわけだが、この脂肪筋を減らすためにも運動は欠かせないと田村さんは話す。

 「2型糖尿病患者さんに、2週間、食事療法のみをした群と、食事療法に運動療法を加えた群で比較したところ、運動療法を組み合わせた群のみでしっかりとした効果が表れました。しかも、行ったのは今よりもプラス3000~4000歩程度、1日のトータルの歩数を増加させた程度の『散歩』。脂肪筋は、活動不足によって生じますが、運動をすることによってわずか2週間でも減らすことができる。つまり、脂肪が燃焼する現場である筋肉を活性化するため、効果も表れやすい、といえます」(田村さん)

食事+運動で脂肪筋が減り、インスリンの効きも良くなる
食事+運動で脂肪筋が減り、インスリンの効きも良くなる
2週間の糖尿病教育入院となった2型糖尿病患者14人を、食事療法のみ、食事療法+運動療法により治療する2群に分け、治療前後の脂肪筋量、インスリン感受性(インスリンが効きやすいかどうか)を測定した。脂肪筋量は食事療法+運動療法群で19%減少、インスリン感受性は57%増加した。(データ:J Clin Endocrinol Metab. 2005 Jun;90(6):3191-6.

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