陽性となった標本のうち、感染性があったのは0.3%

 20人の患者(年齢の中央値は65歳、60%が女性)の病室から採取した標本を分析しました。患者の入院期間の中央値は6日で、標本を採取した病室にいた期間の中央値は5日でした。15人(75%)に明らかな症状があり、8人(40%)は発熱、6人(30%)には咳、8人(40%)には息切れ、5人(25%)には下痢が見られました。

 20の病室から計347標本を得て、ウイルスRNAの存在を調べました。PCR検査で陽性になったのは19標本(5.5%)で、9標本(9.2%)はベッドの横板、4標本(8.0%)は洗面台、4標本(8.0%)は病室のコンピュータ、1標本(2.0%)は医療用作業台、1標本(2.0%)は病室側のドアハンドルから採取されたものでした。それらのうち6標本は1日目に採取されたもので、10標本は3日目、2標本は6日目、1標本は10日目に採取されていました。

 PCR陽性となった19標本に感染性を持つウイルスが存在するかどうかを調べたところ、発熱と下痢のある1人の患者が入院していた病室のベッドの横板から3日目に採取された1標本(0.3%)のみが、培養細胞において増殖しました。

飛沫感染の予防に力を入れることが大切

 患者が入院中は、定められたとおりに病室の消毒は行われていましたが、患者からのウイルスの排出は継続していたはずです。そうした病室内で採取した標本がPCR検査で陽性となっても、感染性のあるウイルスが検出されることは非常にまれでした。

 研究者たちは、「培養細胞に対する感染性を持つウイルスが1標本から見つかったが、この結果が、接触感染が発生するレベルのウイルスがそこに存在していたことを意味するわけではない」とし、「感染経路の中心である飛沫感染を予防する対策に引き続き力を入れることが大切だ」との考えを示しています。

 日常生活において手に触れるさまざまな物の表面にウイルスRNAが存在していたとしても、それが感染を引き起こす危険性が低いとすれば、触れた手を洗うことでリスクは非常に小さくなります。表面の消毒を熱心に行うよりは、飛沫感染を防ぐために、マスクを適切に着用し、密を避け、換気を積極的に行うほうが利益は大きいと考えられます。

大西淳子(おおにしじゅんこ)
医学ジャーナリスト
大西淳子(おおにしじゅんこ) 筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday(グッデイ)2022年3月31日掲載]情報は掲載時点のものです。

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