新型コロナウイルスが、身近に存在するさまざまな物質の表面(環境表面)を介して接触感染を起こすリスクは、これまでに思われていたほど高くないようです。実際に患者が入院していた病室内であっても、感染性を保った状態でウイルスが付着している頻度は非常に低いことが、米国の研究(*1)で明らかになりました。

外から持ち込まれたものすべてを消毒する必要性は…?(写真:PIXTA)
外から持ち込まれたものすべてを消毒する必要性は…?(写真:PIXTA)

患者の使った病室で、環境表面からウイルスを検出する実験を実施

 新型コロナウイルス感染症の感染経路については、パンデミックの当初から、主に飛沫感染と接触感染である、とされてきました。接触感染は「ウイルスが付いたものに触った後、手を洗わずに、目や鼻、口を触る」と発生するとされています。

 これまでに、環境表面に新型コロナウイルスが付着した場合に、どのくらいの期間存在しているのかについて検討した研究結果が数多く報告されています。しかし、それらが用いていたウイルス検出法は主にPCR検査であり、陽性と判定されても、検出されたウイルスに感染性があるのかどうかは不明でした。ウイルスのRNAが壊れて感染力を失っていても、PCR検査では陽性という結果になるからです。感染性のあるウイルスの有無を明らかにするためには、バイオセーフティーレベル3の施設が必要で、それを実施できる研究者は限られていました。

 今回、米Duke大学のBobby G. Warren氏らは、現実的な接触感染のリスクを推定するために、接触感染が起こるとしたらそのリスクがどこよりも高いと考えられる、新型コロナウイルス感染症患者の病室で、環境表面からウイルスを検出する実験を行いました。

 2020年10月から2021年6月までの期間に、大学病院1施設で、新型コロナウイルス感染症患者が使用した病室内のさまざまな表面から標本を採取し、新型コロナウイルスのRNAを検出する実験と、感染可能なウイルスを検出する実験を行い、結果を比較しました。

 分析対象としたのは、PCR検査で新型コロナウイルス感染陽性が確認されてから、24時間以内に1人部屋に入院した患者の病室です。入院1日目は、陽性が出てから24時間後までとし、入院3日目、6日目、10日目、14日目に、ベッドの両側の横板、洗面台、医療用作業台、病室付属のコンピュータ、病室側のドアハンドル、病室外のナースステーションのコンピュータの表面から標本を採取しました。具体的には、PCR検査用の綿棒を用いて表面をこすり、ウイルス輸送用培地に移しました。

 まず、採取した標本に対してPCR検査を行いました。結果が陽性になった標本をバイオセーフティーレベル3の実験室に移して、培養細胞と混合して観察しました。ウイルスが感染して増殖すれば細胞の形態が変化します。

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