先生、筋トレの後に酒を飲むのはよくないのでしょうか?

 「残念ながら、筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼします。それを示す研究結果もあります(*1)。ちなみに筋トレ前に飲んでも、血中のアルコール濃度は急激には下がらないので、結果はあまり変わらないですね」(藤田さん)

*1 PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384.

 ショック……。運動後のビールやハイボールほどおいしいものはないが、こと筋トレとなるとアルコールとの相性が悪いのだ(涙)。

 ではなぜ、筋トレ後にアルコールを飲むと、筋肉の合成に悪影響を及ぼすのだろうか。

 「筋トレを行うと、筋肉を合成する生理作用が高まります。その際、筋肉の合成を高めるスイッチとなるmTOR(エムトール)という酵素が細胞内で働き、たんぱく質の合成が活性化されます。mTORを作用させるには、筋トレ以外に、たんぱく質を摂取して血中のアミノ酸の濃度が高まることが有効といわれています。ところが、筋トレ後にアルコールを飲んでしまうと、このmTORの作用が抑制され、筋肉の合成率が3割程度も減るという研究があるのです」(藤田さん)

筋トレ後のアルコール摂取と筋たんぱくの合成率
筋トレ後のアルコール摂取と筋たんぱくの合成率
筋トレを行った後の2~8時間の筋たんぱくの合成率を表したもの。オーストラリアのRMIT大学で、8人の運動習慣のある健常者(平均年齢21.4歳)を対象にした研究。(PLoS One. 2014 Feb 12;9(2):e88384. を基に作成)
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 藤田さんが示してくれたその研究結果を見ると、一目瞭然だ。オーストラリアのRMIT大学で行われた研究では、トレーニング後に、(1)プロテインのみ摂取、(2)アルコール+プロテインを摂取、(3)アルコール+糖質を摂取という3つのパターンを比較した。その結果、(2)のアルコール+プロテインのパターンでは、プロテインのみ摂取した場合より、筋肉の合成率が24%減少し、(3)のアルコール+糖質のパターンでは37%減少することが分かった。

 汗水たらして一生懸命筋トレしても、その後にアルコールを飲んだら効果は激減ということか。そりゃ、いくら筋トレしてもカラダにキレが出ないはずである。

 「筋トレ後のアルコールの影響は、女性に比べ男性のほうが大きいと考えられます。アルコールを飲むと、男性ホルモンの一種であるテストステロンの分泌が抑制されます。テストステロンは筋肉の合成と深い関わりがあるため、それゆえに男性のほうが筋肉の合成の落ち込みが大きいのではないかと考えられます」(藤田さん)

 一瞬、「女性には影響が少ない」とぬか喜びしてしまったが、そうではなさそうだ。

 「だからといって、『女性は安心して飲んでいい』というわけではありません。女性でも、筋肉の合成にアルコールが悪影響を与えていると考えられますし、また長期的に毎日多くのアルコールを飲むことで健康に被害があることは変わりません。アルコールの影響を軽視しないようにしましょう」(藤田さん)

十分に時間をあけて少量の飲酒ならOK?

 ところで、先ほどの研究で気になるのが、被験者が飲んだアルコールの量である。どのぐらいの量を飲むと、筋肉の合成にどれくらいの影響が出るのだろう?

 「この研究では、体重1kg当たり1.5gのアルコール摂取と、かなり多めの量を飲んでいます。体重が80kgの被験者が120gのアルコールを摂取しているということになります。ウォッカ60mLを4杯なので、どう考えても日常的に飲む量とはいえませんよね」(藤田さん)

 ということは、もっと少ない量であれば筋肉の合成に影響はあまりないのだろうか? また、お酒の種類によって影響の大きさが変わったりしないのだろうか。

 「現在、どれくらいの量なら問題ないか、というデータはありません。ただ、先ほど挙げた研究の結果から推測すると、筋トレから十分に時間を空ければ、ビール(350mL)1~2缶くらいであれば影響が少ないのかなと思います」(藤田さん)

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