難聴のある人が補聴器などを使って「聴こえの悪さ」を改善すると、認知機能の低下リスクが小さくなることが、複数の研究データを統合した分析(*1)で示されました。

聴こえの悪さを補聴器で改善すると、認知機能が下がりにくくなることが分かりました。(写真=PIXTA)
聴こえの悪さを補聴器で改善すると、認知機能が下がりにくくなることが分かりました。(写真=PIXTA)

補聴器の使用者は認知機能低下のリスクが約2割減

 難聴は、認知機能低下の重要な危険因子であることが分かってきました。では、聴力を補うデバイスを使用すれば、認知機能の低下を予防できるのでしょうか。

 この問いに対する答えを得るために、シンガポール国立大学のBrian Sheng Yep Yeo氏らは、難聴患者が補聴器の使用を開始した場合、または人工内耳植込術を受けた場合に、その後の認知機能にどのような影響が及ぶのかを調べることにしました。

 著者らは、文献データベースから、18歳以上の難聴患者を対象に、聴力補助デバイス(補聴器または人工内耳植込術)が認知機能に及ぼす影響を検討していた31件(対象者は計13万7484人)の研究を抽出。その中からまず、長期的な関係を検討していた8件の研究のデータを分析しました。それらは全て、補聴器の使用と認知機能の低下の関係を検討しており、12万6903人を2年から25年にわたって追跡していました。

 8件の研究のデータをプールして解析したところ、補聴器使用者は、非使用者に比べて認知機能低下のリスク19%低くなっていました(年齢、性別、学歴、社会経済学的地位、併存疾患を考慮した分析の結果)。さらに、これら8件のうち、認知機能障害の発生について報告していた3件のデータを分析したところ、補聴器使用者では非使用者に比べて認知機能障害の発生リスク21%低くなっていました。このほか、補聴器使用者は軽度認知障害から認知症への進行リスク27%低下し(1件の研究)、認知症の発症リスク(4件の研究)も17%低下していました。

 これら8件の研究は、米国、欧州、アジアで行われていましたが、どの地域で行われた研究も一貫して補聴器使用の利益を示しました。

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