「定年うつ」とは、仕事一筋だった人が定年退職を迎え、急にやることがなくなり、自宅に引きこもって暮らすうちに、うつ病になってしまうこと。最近は、定年後再雇用や早期退職の転進支援制度があり、「60歳を過ぎたら一様に退職する」ということはないものの、60歳前後でメンタルの落ち込みを経験する人は少なくありません。新刊『50歳からの心の疲れをとる習慣』の著者である心理カウンセラーの下園壮太さんに、こうしたメンタルの落ち込みを回避するためにできることを聞きました。
定年退職後にメンタルが落ち込み、うつ病になってしまう人は少なくない(写真はイメージ=123RF)
定年退職後にメンタルが落ち込み、うつ病になってしまう人は少なくない(写真はイメージ=123RF)

定年後再雇用や早期退職は一般的になったが…

 「定年うつ」という言葉があります。

 仕事一筋だった人が定年退職を迎え、急にやることがなくなり、自宅に引きこもって暮らすうちに、うつ病になってしまうというものです。

 趣味もなく、人間関係のほとんどが仕事に関連したものだったので、会社で働かなくなると社会とのつながりが失われてしまい、その結果、身近な家族以外と話す機会が極端に減り、気分が落ち込みがちになり、精神的に不安定になる……。心理カウンセラーとして長年活動し、多くの人をカウンセリングしてきた経験から、これが定年うつの実態ではないかと感じています。

 最近は、定年後の再雇用早期退職による転進支援制度などがあり、「60歳を過ぎたら一様に退職する」ということはなくなりました。それでもやはり、60歳前後でメンタルの落ち込みを経験する人は少なくないようです。

 なぜなら、定年後の再雇用や早期退職による転進支援制度を利用した結果、仕事をする環境が大きく変わり、その環境変化に加齢からくる心身の変化が重なって、これまでにない大きなストレスにさらされがちだからです。

自衛隊では平均55歳で定年に

 私が所属していた自衛隊という組織は定年が早く、平均で55歳という「若年定年制」を採用しています。そのため、次の働き口を探す再就職斡旋プログラムというありがたいシステムがあり、ほとんどの人が活用しています。

 私自身は利用しなかったのですが、その制度で再就職した多くの人たちからも、新しい職場で大きなストレスに直面した、と話を聞いています。

 自衛隊は、独特の文化を持った組織です。そこを出て再就職した先で、「これまでのやり方が通じない」という状況に陥ると、大きなストレスが生じるのです。中には、まるで自分自身の存在が否定されたように感じる人もいるようです。

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