子宮頸がんの原因として知られるヒトパピローマウイルス(HPV)は、実は男性のがんの原因にもなる。実際、国内外でHPVが原因となる男性の「中咽頭がん」が増えているのだ。日本産科婦人科学会と日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が2022年11月に開催したメディア向けのセミナーから、大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授の猪原秀典氏による「HPVが引き起こすもう一つのがん『中咽頭がん』」の内容をお届けする。
(写真はイメージ=123RF)
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HPVが原因となるがんは「子宮頸がん」だけではない

 ヒトパピローマウイルスHPV)は子宮頸がんの原因となることが知られているが、HPVが原因となるがんはそれだけではない。女性の外陰がん膣がん、男性の陰茎がんのほか、男女に共通する肛門がん中咽頭がんなどがある。

(元画像=PIXTA)
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 中咽頭がんは、舌の付け根(舌根)や扁桃(へんとう)あたりの「中咽頭」と呼ばれる領域にできるがんだ。中咽頭がんは、原因別に見ると、主に酒・たばこの影響によるものと、主にセクシャルビヘイビア(性行動)が影響するHPV関連のものと、大きく2種類に分けられる、と猪原氏は話す。

 いずれの種類も、女性より男性のほうが多いが、それぞれに異なる特徴があるという。例えば、がんの発生部位だ。

 「舌根や扁桃には月のクレーターのような小さなくぼみがあります。HPV関連のがんは、この『陰窩(いんか)』と呼ばれるくぼみの奥にHPVが侵入することで発生するのに対し、飲酒・喫煙関連のがんは表層の上皮に発生するという違いがあります。そのため、HPV関連はがんの起源となった場所が分かりにくく、早期発見が難しいという特徴があります」(猪原氏)

 また、発症年齢にも違いがある。飲酒・喫煙関連は50代以降が多く、一方HPV関連は40代ごろから発症する人も多い。そして、飲酒・喫煙関連では食道がんを併発するケースが多い傾向があるのに対し、HPV関連の場合はそのほかのがんを重複するケースは少ない。

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