ビタミンDの血中濃度と死亡の間には因果関係があり、ビタミンD不足は死亡リスクの上昇をもたらすことが、オーストラリアの研究者らが行った、遺伝情報を利用した新しい分析(*1)によって明らかになりました。ビタミンDの血中濃度が50nmol/L(20ng/mL)未満の人、特に25nmol/L(10ng/mL)未満の人では、死亡リスクが非常に高くなっていました。

ビタミンDは紫外線を浴びると皮膚で合成されるほか、サケなどの魚類やキノコ類などに含まれています。(写真=123RF)
ビタミンDは紫外線を浴びると皮膚で合成されるほか、サケなどの魚類やキノコ類などに含まれています。(写真=123RF)

ビタミンD不足と死亡の因果関係は? 無作為化試験には壁

 ビタミンDは骨の健康や免疫機能の調節にかかわる栄養素で、食事から摂取したカルシウムの吸収率を高め、血液中のカルシウム濃度を一定に保つなどの作用があります。

 ビタミンD不足がさまざまな病気に関係すること、さらには死亡とも関係することを示した研究はこれまでにも複数ありました。しかし、重症のビタミンD欠乏症患者を対象に無作為化試験を行って、ビタミンDを投与するグループとそうでないグループに割り付けて死亡率を比較する、といった研究は、危険すぎて行うことができません。一般の人を対象に、ビタミンDを投与するグループとそうでないグループに割り付けて、死亡について検討した研究はいくつも行われていますが、明確な結果は得られておらず、それらのデータをまとめて解析したメタ分析では、高齢者やがん患者など、一部の人に利益が見られたと報告されていました。

 今回著者らが用いたのは「メンデルランダム化解析」という分析法です。メンデルランダム化解析とは、遺伝情報を利用してある事象の因果関係を検討する分析法で(参考記事:「お酒の『Jカーブ』は存在しない 米国で新たな研究結果」)、この分析法を用いると、無作為化試験を行うことなく因果関係について検討できることが明らかになっています。

 これまでメンデルランダム化解析は、関係を検討する2つの要因の間に比例関係があると予想される場合に用いられてきました。しかし、ビタミンDのような栄養素の場合には、あるレベル以上の濃度になると影響が現れる、「閾値」が存在することが示されており、病気や死亡との関係は線形(比例)ではないと予想されます。先ごろ、メンデルランダム化法を非線形関係にある2つの要因の因果関係の分析に利用する方法が提案されたため、著者らはこの方法を利用して、血液中のビタミンD濃度を1人1人の遺伝情報に基づいて予測し、死亡との関係を調べることにしました。

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