コロナ禍でオフィス縮小の動きが広がる中、2020年8月、KADOKAWAが約2700坪の大規模オフィスを開設した。埼玉県所沢市の複合文化施設「ところざわサクラタウン」に併設した「所沢キャンパス」では、約1000人が働ける。一方、東京都心の飯田橋にある従来の本社オフィスは「東京キャンパス」と命名して、2拠点体制とした。

20年8月、KADOKAWAは複合文化施設「ところざわサクラタウン」に新オフィス「所沢キャンパス」を開設した
20年8月、KADOKAWAは複合文化施設「ところざわサクラタウン」に新オフィス「所沢キャンパス」を開設した

 ただ、部署ごとにどちらの拠点で業務をするかが決まっているわけではない。業務の内容やその日の従業員の気分によってオフィスを自由に使い分けられる。この2拠点以外に、法人契約した複数のサテライトオフィスや在宅勤務も選択可能だ。

 こうした場所にとらわれない働き方は欧州が発祥と言われ、「アクティビティー・ベースド・ワーキング(Activity Based Working=ABW)」と呼ぶ。KADOKAWAはコロナ前から数年間かけて導入を準備してきた。所沢キャンパスの稼働を機に本格的に導入し、現在、在宅勤務率は約7割をキープしているという。

フリーアドレス制を社外にまで拡大する

 コロナ禍により結果的に在宅勤務率が高まったが、KADOKAWAが取り組むABWの目的は、在宅勤務に限定せず柔軟な働き方を実現することだ。オフィスのフリーアドレス制を社外にまで拡大する概念であって、リアルなコミュニケーションを否定しているわけではない。だからこそコロナ禍の最中でも所沢キャンパスを予定通り稼働させたのだ。

「所沢キャンパス」の内部。ワンフロアに1000人が執務できる大規模オフィスだ
「所沢キャンパス」の内部。ワンフロアに1000人が執務できる大規模オフィスだ

 KADOKAWAの100%子会社で、ICT環境の整備や働き方改革を担当するKADOKAWA Connected(東京・千代田)の各務茂雄社長は、「企画を立案するようなブレスト活動は、対面で話したほうがアイデアが出やすい。KADOKAWAのような出版社は、デジタル思考とアナログ思考を組み合わせたハイブリッド型の働き方が合っている」と話す。

 各務氏は楽天、米マイクロソフト、アマゾン ウェブ サービス(AWS)など最先端のIT企業でキャリアを積んできた。KADOKAWAと経営統合したドワンゴでインフラ改革を担当した後、角川歴彦会長から情報システム部門トップとしてABWプロジェクトを推進するよう指示を受けたという。

 ただ各務氏は課題を洗い出すうちに、ICT環境を整備する小手先の取り組みだけでは、新たな働き方の定着は難しいと感じたという。KADOKAWAは歴史ある出版社で、ビジネスそのものが紙文化を前提にしたものだったからだ。

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