都会の喧騒(けんそう)から離れ、大自然に抱かれた露天風呂にゆったりとつかる。浴衣に着替え、温泉街をそぞろ歩きし、日が落ちれば、旬の食に舌鼓を打つ。旅館の中庭に面する縁側から、色づく木々を心ゆくまで観賞するもよし。こうした日本ならではの温泉体験とテレワークを組み合わせたのが「温泉ワーケーション」だ。

温泉旅館でワーケーションを体験するビッグローブの社員。オフィスに集うよりも密度が高いコミュニケーションができたという
温泉旅館でワーケーションを体験するビッグローブの社員。オフィスに集うよりも密度が高いコミュニケーションができたという

 ワーケーションとは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語である。「温泉で働き、温泉で癒やす」をコンセプトに、インターネット接続大手のビッグローブ(東京・品川)が「TRY ONSEN WORKATION プログラム」と銘打って2021年3月17日から、参加企業を募り始めた。

 応募できるのは、正社員30人以上の企業で、1社当たり最大4人まで。滞在日はすべて平日となる2泊3日で、朝夕食付き。ノートパソコンを持参し、滞在時間の半分以上をテレワークに充てること、参加者の1人以上は人事担当者であること、ワーケーションの実施前後でアンケートに答えることなどが条件となっている。要求は細かいが、その代わり、ビッグローブが宿泊費を全額負担する。

 既にIT企業を中心に電力、サービス、メーカーなど幅広い業種から応募があり、21年5月中旬には全国で温泉ワーケーションの実証実験が本格的に始まる予定だ。

温泉が「三方よし」を生むか

 なぜテレワークをするために、わざわざ温泉地まで赴くのか。構想は、社内の現状に目を向けることから始まった。

 20年4月の緊急事態宣言発令に先んじて、ビッグローブは全社一斉にテレワークを導入した。社内アンケートで約8割の社員が在宅勤務中心に切り替え、出社は月に数回だけと回答するほどテレワークは浸透したが、その一方で、実に3分の2近く(64%)の社員が「コミュニケーションが取りにくい」という不満を挙げた。

 「この不満を掘り下げていくと、テレワークという非対面でのワークスタイルでは、社員の中にストレスのリスクがあることがつまびらかになった」とビッグローブの有泉健社長は語る。

 ストレスを緩和するにはどうすればいいのか。たどり着いたのが「ハイブリッドな働き方のオプションであるワーケーションが有効なのではないか」(有泉氏)という仮説だった。

 ビッグローブは、旅行者に人気の温泉宿や温泉地を相撲の番付形式で発表する「みんなで選ぶ温泉大賞」を12年にわたって主催してきた。温泉ワーケーションが企業の間で広がれば平日の連泊需要が生まれ、コロナ禍で苦境に立つ温泉地の宿泊客底上げに貢献できる。「温泉大賞のネクストノーマルをつくっていこう」(有泉氏)と考えたのだ。

 それだけではない。「温泉に入ることで、社員にとってはストレスが快方に向かい、非日常の環境で発想の転換が得られるメリットが考えられる。企業にとっては、ハイブリッドな働き方と健康経営を両立できる。温泉地、社員、企業がウィン、ウィン、ウィンになる『三方よし』が実現できるかもしれない」(有泉氏)

温泉ワーケーションは、温泉地、社員、企業の「三方よし」を目指す試みだ
温泉ワーケーションは、温泉地、社員、企業の「三方よし」を目指す試みだ
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 物は試しと早速、社員自らチームを組み、温泉地へと旅立った。20年9月、第1陣が宿泊したのは湯河原温泉郷(神奈川県)。企画職中心のメンバーで、デザインシンキングや、ブロック玩具で街をつくるワークショップでアイデアを出し合った。

 続く別府温泉郷(大分県)では、広報からサービス部門まで、さらには損害保険ジャパン、三井住友ファイナンス&リースの社員も迎えた「混成チーム」でテレワークを体験した。わたり温泉(宮城県)では、エンジニアばかりで集まって開発合宿をした。

社員の愛着度も高まるか

 成果はどうだったのか。「オフィスだったらできないコミュニケーションの壁を越えられた」と振り返るのは、別府に同行した広報グループの田中秀宗氏だ。

 意外だったのは、若い社員ほど、ワーケーションに前向きだったこと。「今や、社員旅行って若い人は絶対行きたがらないじゃないですか。それが『温泉ワーケーションはどう?』と聞いたら、『いいですね』と返ってきた。会社では絶対にしゃべらないようなプライベートなこともお互いに腹を割って話せたし、社員同士のリスペクト、関心度がより高まったと感じる」(田中氏)。

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