東京への一極集中が止まらない。一方で「地方」では少子高齢化に輪をかけて労働人口の流出が止まらず、慢性的な過疎化で数多の地域が危機に瀕している。人口を増やすには、良い仕事と、良い住環境と、良い学校の3つが必要だが、まずは生活の糧となる仕事がないと始まらない。地方では就職先が“本当にない”、あるいは“ないと思われている”こと、それが問題だ。だから地方創生の本質とは、その地域に持続可能な事業を創り上げて安定雇用を生み出すことだと言えるだろう。しかし、人口の少ない地域で持続可能な事業を創るのは、東京圏で成功するよりも遥かに難しい。だからこそ、その地域独特の特徴を魅力的な消費者価値に転換するマーケティング・ノウハウの注入が欠かせないのだ。

 地方創生が進まない理由はいくつかあるが、最大の原因はシンプルだ。それは不可欠な「ノウハウ」をもたずにやっていることである。肝心のノウハウの必要性の理解が進んでいない。今回はそのノウハウである「マーケティング」が、何もないところからどのように消費者価値を創り上げるのか、刀の事例を使ってできるだけ読者に想像できるように述べていきたい。「地方創生」を日本再浮揚につなげられるように想いを込めて書く。

ないものはない! 山で集客せよ

 刀社は2018年から集客施設「ネスタリゾート神戸(旧グリーンピア三木)」のマーケティング支援をさせていただくことになった。ブランド名に神戸とあるが、実は神戸ではなく隣接する兵庫県三木市に存在する。この施設はかつて「グリーンピア三木」と呼ばれ、全国に13か所つくられた年金保養施設の1つである。グリーンピア三木も、バブル期の発想で数百億円を投じ、ホテルや温泉・テニスコートなどが建設されたが、他のグリーンピアと同様に経営破綻した。地元経済のためにこの施設を再生する志ある新たな経営者の下で、2016年7月に「ネスタリゾート神戸」として再出発した。しかし依然として状況は厳しく、刀に御相談が寄せられる運びになった。

 ネスタリゾート神戸を持続可能に改革できるかどうかを考えたら、少し調べただけでユ二バーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字に曲げるよりも遥かに難易度が高い挑戦だとわかった。ネスタリゾート神戸には集客の目玉に活用できる特徴が見当たらなかったからだ。バブル期の発想で建てられた特徴のない“保養施設”ではあるが、それらはことごとく集客に勝つ“セオリー”を外していた。かといって特徴を創るために新たな大型投資をする予算はなく、CAPEX(設備投資費用)を使わずに集客を何倍にも激増させねばならない。しかも時間の猶予もない。山積する数多の問題と、広大な山林だけが目の前に広がっていたのである。 

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