後継者がいない、育たないという事業承継問題は、日本経済が抱える深刻な問題である。2020年の帝国データバンクの調査によると、事業承継を「経営上の問題」と認識している企業はなんと約7割に及び、多くの企業が「後継者の育成」にも悩んでいる現実が浮かび上がる。創業のカリスマからの継承が上手くいかず経営が頓挫するケースも多発している。いよいよ後継体制が整わなければファンドなどに売却して外部から経営者を招く方法もあるが、事業が持続成長できる確率は決して高くはない。日本企業の平均寿命が、約30年に留まっている現実も事業承継の難しさを物語っている。

事業承継がうまくいかないのは「ノウハウ(思想)が“見える化”されていない」から

 実は刀社にも事業承継の支援に挑戦した経験があり、なんとか実績を出させていただいた。私自身も、実際にやってみることで何に注意すべきかが明瞭になる貴重な機会となった。

 その具体は公表できないので、まずは自身のケースを題材に話を進める。私も起業している“創業者”の端くれだが、4人もいる自分の子供の誰かを刀に入れようとは決して思わない。なぜならば、事業を継承することの本質は、血の継承ではなく、ノウハウ(思想)の継承だと考えているからだ。この場合のノウハウとは、ブレない価値観から定められる事業目的と、その目的を完遂するために必要なビジネス構造の理解と、その構造を操縦するためのあらゆる手練手管のことである。まとめると「ノウハウ」という言葉になってしまうが、経営者の価値観に根を生やしているのでむしろ「思想」に近い概念だ。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り5218文字 / 全文5916文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「株式会社刀・森岡毅の「ビジネスを伸ばす武器」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。