「あなたは候補時代に『移民は今こそ米国に来るべきだ』と繰り返した。中南米からの移民はあなたがモラルのあるまともな人だと信じたからこそやってきたのに、国に返される人もいる。収容施設は人であふれかえっている。いつまでに解決するのか」

メキシコとの国境に押し寄せている米国への移民希望者(写真:AP/アフロ)

 ジョー・バイデン米大統領の誕生後、初の記者会見が開かれたのは就任から64日が経過した3月25日のことだった。しびれを切らした地元メディアは同氏が抱える課題を次々に問い詰めた。

 中でも米国民の関心を集めているのが、メキシコ国境に押し寄せている移民の問題だ。3月だけで17万2000人がグアテマラやホンジュラスなどから受け入れを求めて入国、うち1万人以上が親の付き添いのない子どもたちだった。水や食料、寝る場所が不足し人道問題に発展している。

 だがバイデン氏は「カマラ・ハリス副大統領に指示した」とするだけで、具体的手段も日程も明らかにしなかった。

 「回答になっていない。対応が不十分だ」。米CNNや米ニューヨーク・タイムズといった、就任前は民主党候補者のバイデン氏を強力に支持していたはずの左派メディアまでもが、手のひらを返したように批判の矛先を向ける。

 トランプ政権下で深く刻まれた分断の溝は一向に解決の糸口が見えない。2020年5月に発生した白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさんの暴行死事件は、全米を人種差別撤廃に向けた大きな運動へと突き動かした。ところがバイデン氏就任後は、さらにアジア人差別の問題も浮上してきた。

 3月中旬にジョージア州アトランタで起きたスパ施設などでの銃撃事件をきっかけに、各地でアジア系米国人が攻撃されて重傷を負う事件が多発している。

 「サンフランシスコでタイ系移民の84歳が朝の散歩中に地面に押さえ込まれ、その後に死亡」「ニューヨークで89歳の中国系女性が2人に殴られ、火を付けられる」「ニューヨークの地下鉄で何者かが61歳のフィリピン系米国人の顔をカッターで切りつける」──。

 ニューヨーク市では21年に入ってからすでに35件のヘイトクライムが起きており、20年通年の28件を超えた。アジア系米国人の支援団体によると、米国で今年1~2月、アジア系を狙った犯罪が前年同期に比べて500倍に増えている。

ニューヨークでの暮らしを一変させた事件

 「3月29日からの1週間は1歩も家の外に出られなかった」。ニューヨーク市在住の日本人駐在員はこう不安げな表情で話す。

 同日の昼にマンハッタンで起きたヘイトクライムが、この駐在員だけでなく同市在住のアジア系住民の暮らしを一変させた。65歳のフィリピン系女性がホームレスの男性に「おまえはよそ者だ!」と跳び蹴りされ、何度も頭部を踏みつけられた。目の前にある高級マンションの従業員2人は助けるどころかドアを閉め、トラブルを回避する様子が監視カメラに映っていた。

 「私もいつ同じ状況になるか分からない。街中で襲われても、誰も私を助けてくれないと思うととても怖い。でも高齢者はもっと怖いはずで、食料を買いに行けない人もいるはず」

 同市在住のアジア系米国人のマディー・パークさんはこう考え、インスタグラムに「Cafe Maddy Cab」という名のアカウントを立ち上げた。自ら2000ドルを個人間送金サービス「Venmo(ベンモ)」に用意し、アジア系の女性や高齢者がタクシーを利用したいときにいつでも使えるようにしたのだ。すると、世界中からパークさんの元に寄付金が送られてくるようになり、2日間で10万ドルが集まったという。

 助け合いの輪は幅広い人種に広がっている。ニューヨーク市内で毎週末のように実施されているアジア系へのヘイトクライムに抗議する「アジアン・ライブス・マター」のデモには、黒人や白人も多く参加している。

 バイデン氏も3月30日、ヘイトクライムの被害者への支援や取り締まり強化といった追加対策を打ち出した。だが、現時点で犯罪が治まる気配は見えない。

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この記事はシリーズ「アメリカは変われるか 世界を覆う「トランプ後遺症」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。