テレワークの浸透で複業のハードルが下がった(写真:PIXTA)
テレワークの浸透で複業のハードルが下がった(写真:PIXTA)

今を見るのか未来を見るのか

 収入という観点で見ると「前職の会社員時代を超えるというのはなかなかハードルが高い」。その一方で「想像以上のものが待っていた」と複業という今の働き方を全く後悔はしていない。むしろやりがいを感じている。

 複業をしてみて気づいたことは、自分の持つ価値を複数の企業に分配でき、かつ自分自身も成長を続けられるということだ。これまでは1つの会社に所属し、そこの人事だけを一生懸命やってきた。今の働き方だと多くの企業の似たような案件を同時に手掛けるので、「様々な事例を自分の中で同時進行で共有でき、課題解決に向けて相互にシェア、反映ができる」という。この改善の連続が非常に刺激的で楽しいのだ。滝澤さんは一番好きな言葉「変化なきところに進化なし」をまさに実感できている。

 では、滝澤さんは複業という働き方をほかの組織人にも勧めるのだろうか。仮に組織から離れて個人として複業をしようか逡巡(しゅんじゅん)している人がいたら、どんなアドバイスを送るのか。答えは「今の組織の中でのポジションと年収を捨てたくないのであれば、今のままのほうがいいのではないか」だという。特に大手企業に勤めていると、複業でその年収を超えるのはハードルが高い。

 また「試しにやってみる程度のノリだと、企業に迷惑をかけてしまう」。企業は滝澤さんのような外部人材を、その道に通じたプロと思って招へいする。それに応えうる能力と意志は欠かせない。

 また組織を離れて複業に転じるかどうかは「今を見るのか、未来を見るのかという価値観にもよるだろう」と指摘する。「私は今よりも未来を重視して、今よりも未来にかけて組織人を卒業した」という。今の地位や収入を捨てるのはもったいないと感じて複業に踏み切れない人も、恐らくいるはずだ。組織が大好きだった滝澤さんも決して前職に未練がなかったわけではなさそうだが、今のところ複業に成功していると言えるだろう。

 そして複業に必要な能力はなにか。人事のプロの視点から、そして複業経験者として改めて解説してもらうと「自分の提供できる価値を分解して企業に説明する力が必要。企業側も外部人材を雇うことにまだ慣れていないから、企業の求めるニーズと自分の提供できるスキルや働き方をすり合わせるコミュニケーション力は欠かせない」という。

 シリーズ「副業から複業へ、新たな働き方は広がるか」では5人の複業実践者を紹介してきたが、いずれもコミュニケーション力にたけていた。売り物にできる固有のスキルと、そしてそれを企業にプレゼンできる能力。複業を成功させるには、この2つをまずは備えていたい。

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