「私は仕事に就いているのではない」

 金融業界とコーチング。まったく関連がなさそうな仕事を掛け持ちしているのはなぜか。アシュリーさんがミス・ユニバースジャパンに参加したのは2004年。そこで学んだのは、自信をつけることの大切さだった。そのためコーチングを学ぼうと決心。コーチングスクールに通い、海外では資格も取った。さらに「多くの女性が自信のなさから人生で一歩踏み出せず、前に進めていない」という世の中の状況を見て、これをなんとかしたいと他人へのコーチングも始めた。

 一方、ミス・ユニバースジャパン出場後に就いた仕事は、主にマーケティングだった。アートギャラリーの広報や、富裕層向けのプライベートバンキング(PB)などを手掛ける外資系金融機関の広報などで働いた。しかし11年の東日本大震災で勤めていた金融機関の部門が日本から撤退することになり、その後は化粧品などの高級商材や高級ホテルのPR、ブランディングの仕事を続けてきた。

 金融機関でPB関連業務の経験があり、高級ブランディング戦略も立てられるという経歴が、今の香港でのTsangs Groupでの仕事につながっているのだろう。「富裕層の考えることや行動が分かる」という。

 アシュリーさんは今、自らが持っているスキルを①マーケティング②金融知識③コーチング(コミュニケーション)と分析する。さらに高校時代をオーストラリアで過ごしたため、英語が堪能なのも強みだ。

 コロナによってリモートワークが常識となり、世の中の働き方は大きく変わった。そしてアシュリーさんのように、有効な時間の使い方として複業を加速させている人が出てきている。「例えば世のお母さんも、リモートで成り立つなら働けるかもしれない。働き方のオプションは確実に増えたのではないか」

 しかし複業をするにはまだハードルがある。単なる意欲だけではだめ。「リアルなスキルがないと複業は成功しない」からだ。仕事をもらうには何よりもスキルが大事。しかも「一人で完結できる能力がないといけない」という。アシュリーさんの場合、英語力やマーケティング、金融知識といったスキルに加え、高いコミュニケーション能力を備えていることが複業を可能にしているのだろう。

 アシュリーさんは今、「私は仕事に就いているのではない。私に仕事が付いている」という感覚を持っている。仕事量を自分で調節できるうえ、仮に香港から別の場所に移っても仕事はポータブルだからだ。これが「正社員として会社にくっついた働き方だと動けない」。夫が香港にいるから、今はたまたま香港にいるというアシュリーさんにとって、仕事のポータビリティは非常に大事だろう。

 確かに仕事が自分に付いていて、リモートワークができるのならば、自分が住む場所を変えても仕事は続けられる。そんな仕事をいくつか抱えておくことが「自分のキャリアが途絶えないコツ」なのだ。

この記事はシリーズ「副業から複業へ、新たな働き方は広がるか」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。