
いくつかの柱でリスクを分散
自分や家族の人生を考えたとき、まだ先が長いシニアになった時に働く場所がないのはむしろ不安定ではないだろうか。酒匂さんの頭の中に、少しずつ「定年退職のない人生を始めた方がいい」という価値観が芽生えつつあった。そんな時期に電通がNH制度を発表したため、手を挙げたのだ。
酒匂さんは収入を今より増やしたいという野望をもって独立したわけではない。コンサバな判断という通り、その理由は、少しでも家族が安定して楽しく暮らしていくためだ。そしてそのために自分の中で決まり事を3つ設けた。①収入の上限を決めること②豊かに暮らせる場所に移ること③複業を始めること、だ。
収入の上限を設けるというのは一見、普通ではないかもしれない。だが「収入のために無理して労力や時間をかけ、ストレスを受けたくない」ため、あらかじめ収入の上限を決めてしまうことにした。上限を超えそうなときは仕事を減らし、家族との時間を増やすことにしている。
豊かに暮らせる場所として選んだのは石垣島だ。電通でユーグレナの案件を手掛けた時に何度も訪れ、太陽や空、海、緑と自分の体にとって気持ちのいい場所だと感じていた。しかもコロナの影響で、ほとんどすべての仕事がリモートでできることが分かってしまった。デジタルを駆使して自分にとって気持ちのいい場所で働くことで「場所の束縛から解放されて精神的に豊かになった」と感じる酒匂さんは、4月から小学生の長男を東京から石垣島に呼び寄せる。
そして複業。「収入の柱をいくつか持つことでリスクを分散しながら、本当にやりたいことをやる」のがその狙い。月に15万~30万円の収入になる仕事をいくつかつくるのが目標だ。そんな酒匂さんが石垣島に移住してきて気づいたことがある。「石垣島は既に複業先進国だった」のだ。
Powered by リゾーム?