ビジネスリーダーは、重大な選択を迫られた時、危機的な状況に陥った時、人生の岐路に立たされた時、決断を下すのに必要な「自分の軸」を鍛えたい。それには人類の英知が詰まった「古典」が役に立ちます。このコラムでは古今の名著200冊の読み解き方を収録した新刊『読書大全』の著者・堀内勉氏がゲストを迎え、「読むべき古典この1冊」を手掛かりに、「考える力の鍛え方」を探ります。第1回のゲストは経営共創基盤グループ会長の冨山和彦氏。「この1冊」は『君主論』。対談後編です。

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堀内勉(以下、堀内):前回、『君主論』は冷静に人間を観察した本だという話をしました。人間や社会の色々なメカニズムを冷徹かつ淡々と描いている本ですよね。

冨山和彦氏(以下、冨山): 人はそれぞれに限られた命があり、煩悩があり、その中で色々な行動様式を取っている。だから、集団として抽象化された一定の原理で動くわけではないという話をしました。

冨山和彦(とやま・かずひこ)氏
経営共創基盤(IGPI) IGPIグループ会長 日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長

ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年、産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年に経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。2020年日本共創プラットフォーム(JPiX)設立。パナソニック社外取締役。経済同友会政策審議会委員長。財務省財政制度等審議会委員、財政投融資に関する基本問題検討会委員、内閣府税制調査会特別委員等、政府関連委員多数。近著に『コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える』『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』『AI経営で会社は甦る』『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』他。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。(写真:尾関祐治、以下同)

堀内:人間も社会も常に一カ所にとどまることなく動いているので、そうした流れの中で自分が何をしているか理解するのはとても大切なことだと思います。

冨山:原始的なものから直線的に発達して到達点に行く。そういう物事の捉え方は、自然科学的な世界観だと思います。社会や人間が関わる領域は、直線的ではなく、スパイラルで循環的ではないでしょうか。だからこそ、いまだにソクラテスやプラトン、孔子が読まれる。直線的に発達していたら、過去のものはただ古びて、今の時代には読まれないでしょう。私たちはスパイラルの中にいるからこそ、古典が読まれるんですよね。

堀内:直線の途中ではなくスパイラルの中にいることを、私たちはもっと気づくべきでしょうね。

冨山:これらのいわゆる古典を懐古主義的に読めという人もいますが、僕はちょっと違うと思います。ぐるぐる回っているから、ソクラテスもプラトンも孔子も、常に新しいんです。それが基本的な思考姿勢だったはずなのに、自然科学隆盛の時代が長く続くうちに、気づけば皆、直線的な考え方になってしまった。

堀内:単に過去を延長しただけの直線的な考え方になると、短絡的に「これで歴史は終わりだ」となりがちです。

冨山:そうですね。経営の世界でも、かつてコンピューターは「IBMで終わりだ、最終形だ」と言われていました。でも今はGAFAでしょう。また皆が「GAFAで終わり」と言いますが、20〜30年たったら絶対に変わっています。

 皆、どこかに神様が決めた正解が存在していると思っていて、そこに最短最速でたどり着きたいという思考が強すぎる。「GAFAで決まり」としておけば、ひとまず色々と考える必要がなくなって楽だし、これを正解としておこう、というところでしょう。

堀内:全くその通りだと思いますが、冨山さんのように精神力の強い人でないと、「物事が動いている」とか「とどまっていない」ということを受け入れるのはかなり苦痛ですよね。何かすがるものがないと精神的に辛くなってしまい、「これが正解です」と差し出されたものにしがみついてしまう人が多いのも、また現実です。

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