(写真:PIXTA)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、物流は人々の生活維持に欠かせないインフラであること、物流業で働く人々はエッセンシャルワーカーであることが広く認知された。加えて、日本では近年、トラックドライバーを中心とした人手不足や、「物流の2024年問題(働き方改革関連法により、2024年4月1日からトラックドライバー対して時間外労働の上限規制が適用されることによって生じる諸問題)」などを背景に、物流危機が起きる可能性が語られ始めている。

 先日、国土交通省の総合物流施策大綱の検討メンバーでもあり、加工食品物流プラットフォームの構築を手掛ける味の素の上席理事・食品事業本部物流企画部長の堀尾仁氏と「持続可能な物流の構築・維持」をテーマに対談する機会があった。本稿では、この対談結果を踏まえ、物流業界にとって重要な変革ドライバー(変革を促すための要素)や、異業種間や産官学などの壁を越える連携および協力体制のあり方、国や行政当局を巻き込んだルールメイキングのあり方について考察したい。

「危機意識」の共有から物流改革は始まる

 持続可能な物流を構築・維持するために、物流業界にとって重要な変革ドライバーは「危機意識」を持つことである。その「危機意識」を持つことの難しさとして、日本における物流環境の構造的な課題があることを味の素の堀尾氏は指摘する。

 “物流を取り巻く現状と課題はここ数年間至る所で何度も取り上げられていますが、本質的には何ら変わっておらず、問題だと思います。物流課題に対して当事者意識を持ち、腹落ちさせた上で、本気で危機意識を持たない限り、変革は起こりません。

 物流会社は、仕事を失いたくないから本音が言えません。発荷主は、物流は物流会社がやることであり、そもそも自分たちの仕事と思っていません。着荷主は、コストが削減された状態を崩したくないので現状を変えたくありません。

 このように、誰も何も言わない、言えない状況が20年くらい続いてきて、今の物流の形ががっちりと固まってしまいました。これまでは、日本の物流会社が優秀であったがため、過酷な状況や要求であっても何とか対応してきたのです。潤沢に人がいた時代は、それでも何とか対応できたのですが、いまやそれが限界を超えてきています。

 一方で、メーカー、卸、小売りでも物流現場を間近で見ている人たちの間では危機意識を持つ人が増えてきたという実感もあります。実際に製・配・販の3層で議論をできる場が増えてきています。ただし、会社の経営層までその危機意識が共有されているかというと、まだまだ足りておらず、大きな課題です”

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