世界に遅れてはいるものの日本でも音楽配信が普及し始めた今、ヒットの生み出し方は「新常態」というよりも、法則がつかめない「無常態」に近い状況にある。レコード会社は時代の変化に追いつこうと必死に動き始めている。

 「レコード会社なんていらないと思うよ」。こう話すのはソニー・ミュージックエンタテインメント元社長、丸山茂雄氏だ。レコード会社がこれまでのビジネスの在り方に固執しているだけでは、存在意義がなくなるという。

 従来のレコード会社の役割は大きく分けると3つある。まずは「発掘・育成」だ。制作担当者がライブハウスを回ったり、オーディションを開催したりしながら、スターの原石を見つけ出し、磨き上げて世に送り出す。

 次は「プロモーション」。テレビ・ラジオ番組への出演や広告などを通じ、アーティスト・楽曲の認知度や人気を高めていく役割だ。最後は「流通」。ディストリビューター(流通業者)と組んで各地のショップにCDを置いてもらう。その上でレコード会社は、楽曲の制作費を負担することで得られる「原盤権」を使って収益を上げてきた。

レコード会社では制作担当者がライブハウスを回りながらスターの原石を探してきた(写真:Shutterstock/アフロ)
レコード会社では制作担当者がライブハウスを回りながらスターの原石を探してきた(写真:Shutterstock/アフロ)

 こうした役割は大手であればあるほど、強みがある。体力のある大手ほど発掘に多くの人手をかけられ、メジャーデビューを夢見るアーティストが自ら集まってくる。テレビ局などとのつながりも大手の方が強く、著名なアーティストとセットで新人を人気番組に出演させて認知度を高めることもできる。

 ただ、これはCD時代の話。音楽ソフトの売り上げが大幅に減り、配信へのシフトが進む中で、発掘や育成、プロモーションは、消費者がSNSで拡散させることである種「勝手に」進む。アーティストは、レコード会社に頼らずとも簡単に楽曲を流通させられる。そして制作にかかる費用も大幅に抑えられるようになった。

 丸山氏の言うとおり、レコード会社の存在意義は薄れているように思える。

中国テンセント、米メジャー株買い増し

 世界的には配信の急成長や新興国の経済成長を追い風に音楽市場は伸び、レコード会社の業績も好調だ。米ワーナー・ミュージック・グループの2019年9月期の連結売上高は44億7500万ドル(約4900億円)と前年同期比で1割拡大し、20年には米ナスダック市場に上場した。

 最大手で、仏メディア大手ビベンディ傘下の米ユニバーサル・ミュージック・グループは20年12月期の売上高が74億3200万ユーロ(約9600億円)に達し、前年同期比で4%増えた。中国のネット大手、騰訊控股(テンセント)も食指を動かす。20年3月までに取得していたユニバーサルの株式の10%分に加え、新たに10%を追加取得すると20年12月に発表した。テンセントはユニバーサルの企業価値を300億ユーロとみている。

 ワーナーとユニバーサルにソニーグループを加えた世界レコード会社の三大メジャーは好調な一方、日本では利幅の大きいCDが温存され続けた結果、国内レコード会社などの市場の変化への対応が遅れた。

 日本ではワーナーを上回るシェアを誇るエイベックスの苦境はその象徴ともいえる。21年3月期の連結営業利益は70億円の赤字となる見通し。コロナ禍による市場の急変を劇薬として、レコード会社は「不要論」を払拭すべく動き始めた。

 まずは発掘・育成と流通という役割のアップデートだ。「発掘の方法は変わっても、『本物』を見つけ出すという役割は変わらない」。こう話すのはユニバーサル日本法人の執行役員で、スポティファイ・ジャパンの社⻑を務めた経験を持つ玉木一郎氏だ。

代行サービス、狙いはスター囲い込み

 同社は20年6月、レコード会社に所属していないアーティストの楽曲を様々なサブスクリプション型の音楽配信サービスに代理で登録するサービス「Spinnup(スピンナップ)」を日本で提供し始めた。グループで13年から世界で展開してきた。

 スピンナップのようなサービスの提供企業はデジタル・ディストリビューターと呼ばれる。大手の一つがTuneCore(チューンコア)。瑛人さんの「香水」も、チューンコアの日本法人が様々なサブスクサービスへの配信代行を担った。レコード会社に所属せずとも世に出る手段として機能している。

 レコード会社にとって「敵」ともいえるサービス分野に注力する狙いは未来のスターの囲い込みだ。レコード会社に所属せず、個人で曲を自作する“DIYアーティスト”がネット上で人気を集め始めると、すぐにレコード会社が「所属しないか」と群がるのが現状だ。サブスクサービスへの配信代行を手掛けることで、他社に先んじて有望なアーティストにつばをつけられるようになる。

スピンナップ経由でユニバーサルからメジャーデビューを果たしたJhonatanさん
スピンナップ経由でユニバーサルからメジャーデビューを果たしたJhonatanさん

 「ユニバーサルは音楽業界の世界最大手で、アーティストからハードルが高いように思われがち。アーティストとユニバーサルの緩い接点をつくりたい」(玉木氏)。欧米では既に80組以上のアーティストがスピンナップを通じてユニバーサルとの契約に至っている。日本でもスピンナップをきっかけに20年12月、ブラックミュージックから影響を受け、R&Bポップスを中心とした音楽スタイルを持つJhonatanさんがユニバーサルからメジャーデビューするなど、果実を得始めている。

 レコード会社がデジタル・ディストリビューターとしての機能を抱える動きは世界で広がる。ソニーグループはこのサービスで大手のAWALなどを計4億3000万ドルで買収すると21年2月に発表した。

続きを読む 2/2 アーティストのブランド力が問われる

この記事はシリーズ「変わる音楽ビジネス ヒットの新潮流」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。