2020年、国内の音楽ライブ市場はあわや消滅という事態に陥った。2回目の緊急事態宣言は解除されたが、入場制限は残り、手放しで喜ぶ音楽関係者は皆無だ。ファンが思い切り楽しめるような音楽ライブは復活できるのか。

音楽業界が頼みの綱としていたライブは延期・中止を余儀なくされ、開催できても観客数が制限された結果、市場は急速にしぼんだ(写真:Hill Street Studios / Getty Images)

 2020年12月末、東京・有明。同年6月に開業したばかりのイベントホール「東京ガーデンシアター」で、女性アイドルグループ「私立恵比寿中学(エビ中)」のライブが開かれていた。

 シアターの最大収容人数は約8000人。さいたまスーパーアリーナや日本武道館など大舞台を経験してきたエビ中であれば、通常なら満員になるところだが、会場では観客が座席を1席ずつ空けて開演を待っていた。

 幕が開けた後は、特に寂しい光景だった。アイドルのライブには「コール」と呼ばれる観客からの掛け声がつきものだが、ファンはマスクをつけたまま、声を発しない。サイリウム(ペンライト)の動きがただ光るだけだった。

 小規模なライブハウスはもっと苦しい。福岡市にあるアーリー・ビリーバーズ・カンパニーは2月、破産申請の準備に入ったことが明らかになった。帝国データバンクによると、新型コロナウイルス禍に関連した全国初のライブハウスの経営破綻となる。ライブに関わるイベント会社やプロモーション会社の経営も厳しい。

「宣言」解除後も残る制限

 ぴあ総研によると、20年の音楽ライブの国内市場規模は19年から83%縮小し714億円となったようだ。政府が20年2月末に大規模イベントの自粛を要請し、その後、観客数に制限を付けた。19年の市場規模は4237億円で、9年間で2.6倍に拡大していただけに落差が目立つ。

 ライブの収入は大きく2つに分かれ、チケット収入と、会場でのファングッズなど物販収入がある。グッズが売れる人気アーティストの場合、その比率が半々になることもある。大半のケースはチケット販売で開催費用を賄い、物販で利益を出す。

 ポップスのライブ市場では、18年の時点で、観客数1万人以上のライブによる売り上げが全体の55%を占めた。観客数が制限されると市場への打撃が大きい。多くのアーティストはチケットを値上げしてなんとかしのごうとした。

 2回目の緊急事態宣言が解除されたが、音楽事業者にとってとても喜べる状況ではない。大規模イベントを巡る制限は残るからだ。首都圏の4都県では、解除後に「最大1万人」となり、4月19日から「収容定員の50%以内」という形になる。

 たとえこうした制限がなくなったとしても、音楽業界の不安が消えることはない。複数の関係者はこう口をそろえる。

 「『東京事変』のトラウマが残っているから」

自主的な配慮のさじ加減に悩む

 20年2月末、人気歌手の椎名林檎さん率いるバンド「東京事変」は、政府からの自粛要請の中、感染対策を万全に整えた上で予定されていたライブを決行した。

 この結果、ネットで炎上。「音楽の質と関係のないところで、バンドの評判を落としてしまった」(業界関係者)

 「会場でクラスターを発生させてしまうかもしれないことなどにアーティストやイベント会社はかなりナーバスになっている」と、ぴあ総研の笹井裕子所長は話す。今も当時のピリピリした緊張から抜け出せない。

 イベント開催に欠かせない安全への配慮は今後も当然、必要だ。ただ、政府による制限が緩めば緩むほど、音楽事業者は自主的な配慮のさじ加減に悩むことにもなる。

 音楽ファンの自粛ムードが解けるのもまだ先になりそうだ。笹井氏は「本来ならチケットが即完売するようなアーティストでも、決められた上限の観客数を集められない事例が出ている」と話す。

 ライブによって稼ぐことができない状態が続くと、根本的な変化が起きると指摘するのはぴあの小林覚取締役。「ライブを支える技術者が他の業界に行ってしまい、コロナ禍が収束したときに公演を開けなくなってしまう」。ライブ文化の基盤が崩れかねない。

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