ヨコヨコタテヨコで空席を末端に寄せる仕組み

 日本の場合、欠員は基本的に社内調達で埋めます。このメカニズムを説明します。

 例えば群馬工場で課長の欠員が出た場合、岡崎工場の同職を異動させて埋める。ただし、これは空席をパスすることになり、今度は岡崎工場で欠員が出てしまいます。こうして欠員をヨコにパスしていくと、郡山工場にはちょうど主査から課長に上げてもよい人材がいたりします。

 そこで彼を昇格させると、今度は空席が一格下の「主査」に移る。ここでまたしばらくヨコにパスされる。そうしてヨコヨコと進むと、埼玉工場に出来のよいヒラがいたので、彼を主査に昇格して埋める……。この玉突きが進んでいくと、空席はヨコヨコたまにタテ、という流れで、最後は必ず末端に寄せられます。

 お分かりでしょうか? 日本の場合、強烈な人事権と定期異動という仕組みで、誰かが辞めると、それが役員でもハイレベルなエンジニアでも、空席はヨコヨコタテとパスされて最終的に組織最末端に寄せられる。そうして、エントリーレベルの空席が大量に発生するのです。

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 エントリーレベルの職務であれば、ポテンシャルさえあれば未経験者でも埋められます。だから大量の新卒一括採用をするのです。

 人事部門の仕事を考えてみても、針の穴を通すほどスペックが限られた人材を、中途で同業他社と取り合うよりも、大量の新卒を採用する方がはるかにたやすい。だからこの仕組みは、何十年も前から「なくなる」といわれながらも全く廃れないのです。

 ではなぜ、欧米ではこんなヨコヨコタテをやらず、空席を中途採用で埋めるのでしょう? その理由こそ「ポスト型雇用」で、勝手に人を動かせないことにあります。とはいえ、欧米でもよほどのヘソ曲がりでない限り、「昇格だ」といわれてノーという人はいないでしょう。だから「タテ」はできないことはない。問題はヨコです。

 一般ワーカーに、昇進もしないのに、勤務地替えなど提案した日には、言下にノーを突き付けられるでしょう。エリートコースでもない普通の人だと、「ナナメ」でさえ簡単には受け入れてくれません。結果、上位層の空席を末端まで寄せるのは至難の業となる。だから、欧米では日本のように大量の新卒一括採用を行う国は少ないのです。

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 ポスト限定か否かの違いで、雇用の仕組みがここまで大きく変わることがお分かりいただけたでしょうか。今まではこうした人事管理面からの考察が少なく、ヨコヨコタテで末端に寄せる流れなど理解されなかったのです。なぜ新卒採用をやるか?という話では「純血主義」とか「技能工育成時代の名残」とか当を得ていない解説がなされてきました。

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