日立製作所や富士通など、日本の大手企業が相次いで「ジョブ型」といわれる雇用制度に移行しています。ジョブ型とは、職務内容を明確に定義して人を採用し、仕事の成果で評価し、勤務地やポスト、報酬があらかじめ決まっている雇用形態のこととされます。一方、日本企業はこのジョブ型に対し、新卒一括採用、年功序列、終身雇用で、勤務地やポストは会社が人事権の裁量で決められる雇用形態を取っており、人事の専門家はこれを「メンバーシップ型」と称してきました。

 今、日本企業が進めるメンバーシップ型からジョブ型への移行は何をもたらすのでしょうか。そのジョブ型に対する安易な期待に警鐘を鳴らすのが雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏です。同氏は長年展開されてきた「脱・日本型雇用」議論に対し、独自の視点で疑問を投げかけてきました。

 本連載7回目では、4月1日に新著『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~』(日経BP)を上梓した海老原氏が、日経BPのHuman Capital Onlineで続けている連載から、特に人気の高かった記事をピックアップしてお届けします。

 2021年4月14日(水)には、海老原氏が登壇するウェビナー「日経ビジネスLIVE 雇用のカリスマが斬る『間違いだらけのジョブ型雇用』」の2回目を開催します。こちらもぜひご参加ください(日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります。事前登録制、先着順。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください。月額2500円、初月無料)。本インタビュー記事最後に開催概要を記載しております。

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2019年の労働基準法改正は、時間外労働に厳しい上限を設けるなどして日本の長時間労働の是正を図った。これは一定の効力を発揮したものの、今もなおサービス残業などが続いている。その背景には法律を超えた二つの「神」の存在がある。

(写真:123RF)
(写真:123RF)

 今回は長時間労働の問題を考えます。一体どうして日本は長時間労働の泥沼から抜けられないのでしょうか?

 「法律や政策の問題だ」と主張する人を時折見かけます。インターバル規制(退社からその次の出社までの間に一定の時間を空けること)の導入などについては2010年ごろから騒がれています。

 こうした法規制は「無いよりはあった方がよい」と私も思ってはいます。ただ、法律や政策誘導は、社会が変化し始めた時期に、それを先導するように実施すると奏功するのですが、機が熟していない時点では単なる空念仏に終わってしまうことが多いとも思っています。

2019年の労働基準法改正はまさに時宜を得た改革

 そうしたことを考えると、2019年に労働基準法の改正が行われたのは時期的に絶好だったと言えるでしょう。

 

 2012年に『ブラック企業~日本を食いつぶす妖怪~』がベストセラーとなり、翌13年には「ブラック企業」という言葉が流行語大賞にノミネートまでされています。そうした反ブラック企業の機運が高まる中で、2015年末には電通の高橋まつりさんが自殺し、翌年には国会質問でこの問題が取り上げられました。

 世間がブラック労働に厳しくなってきた背景には、少子化による労働力不足から、社会が女性労働力を欲し、そのことにより「男は働き女は家で」という性別役割分担を肯定する価値観が崩れたことも一因といえるでしょう。男社会の荒っぽいやり方がだんだん許されなくなり、男女共同参画型に近づくに従い、「長時間労働」は「家事育児介護は誰がやるの?」問題につながって、是正圧力が強まりました。こうした流れの中で、ブラック企業・ブラック労働がようやく問題視されたのでしょう。まさに機が熟した段階で、2019年の労働基準法改正と相成ったわけです。

 

 それまで日本の法律には「月間労働時間の上限」がありませんでした。36協定(労働基準法36条に設けた労働時間制限を緩和するための労使協定)を結べば、青天井に働かせることが可能だったのです。そこに絶対的な規制が入りました。その際のことの進め方もうまかったと言えます。

 

 まず「超過勤務の上限100時間」という文言にスポットライトが当たりました。経営側からすると「ああ、そんなに長いのなら大丈夫だろう」と心が緩みもしたでしょう。ところが付則がついており、このルールを守ると残業100時間上限に達することは年に3カ月程度にとどまります。意図してこの流れをつくったのだとしたら、厚労官僚の深謀遠慮に拍手せずにはおれません。

 そして同時に、インターバル規制も努力義務として加わりました。振り返ると、誠に時宜を得た大改正だったわけです。

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