ジョブワーカーたちが残業しない理由は「おなかが空くから」

 こうしたジョブ型「籠の鳥」労働者の生活とはいかなるものでしょうか?

 製造や販売、単純事務、上級ホワイトカラーとの端境領域(中間的職務)などを担当している彼らには、全く残業はないに等しく、17時になるとさっと仕事を終えます。銀行やお役所などでお客さんが列を成していても、「はい、ここまで」と窓口を一方的に閉じるのが当たり前。日本じゃありえませんよね。私が取材を申し込むときも、役所や学校などの公的機関であっても、「金曜はダメ」と平気で断られます。週末はもう働く気分ではないのでしょう。

 そんな彼らに、私は取材で以下の質問をしたことがあります。

 「夜遅くまでの残業は嫌だろうけど、明るいうちに18時くらいまで1時間超過勤務して、残業手当をもらって一杯やりに行く生活の方が良くはないか?」 と。

 彼らの反応はどんなものか、皆さん想像できますか?

 多くの日本人は欧州に憧れを抱いています。だから多分、「家に帰ると趣味や教養の時間になる」とか、「地域活動や社会奉仕など別のコミュニティーでの時間が始まる」などと、エクセレントな想像をするのではないですか?彼らの答えは全く違います。

 「おなかが空くから家に帰る」

 というものなのです。「おなかが空いたら、牛丼でもカレーでも食べて仕事をすればいいじゃないいか」と問い返すと、返答はこうです。

 「あのね、朝飯でも10ユーロ(1200円)もかかるんだよ。夕飯なんて外で食べるわけないじゃない。外食ディナーなんて、友人が遠くから来たとか、誕生日とかそんなハレの日しかしないよ」

 そう、バカ高い物価と低賃金のはざまで、そんな生活をしているのが実情なのです。それでも残業が全くなければ、夫婦共に正社員を続けることが可能です。そうすれば世帯年収は700万円くらいにはなる。欧州の国の多くは大学も無料に近いから、子育てもできる。だから何とか生活は成り立ちます。

 さて、では彼らは長いサマーバケーションなどはどう過ごすでしょうか?フランソワーズ・サガンの小説などを読めば、ニースやトゥーロンなど南仏の避暑地でバカンスしているパリジャンの姿が思い浮かびませんか?

 実際は、パリ郊外の公園にブルーシートを張ってキャンピングをしていたりします。この「ブルーシートを張ったキャンプ用地」の提供なども地元のお役所がやっています。

 こんな状況をフランス研究の専門家、例えば夏目達也先生(名古屋大学)、五十畑浩平先生(名城大学)、永野仁美先生(上智大学)のような方にお話しすると皆、うなずいた後に「想像以上につましい生活をしている」とおっしゃいます。

 スウェーデン研究者の西村純氏(労働政策研究・研修機構)はこんな感じで答えました。

 「確かにつましいですね。でも、バーにはそれなりに行っているようですよ。ただし、ハッピーアワ―が終わると潮が引くようにスーッと人影がまばらになりますが(笑)」。

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