欧米エリートこそスーパージェネラリスト?
このように、学歴と専攻に従って、公的な職業資格が与えられ、その資格で定められた仕事をする。つまり、自分の持っている資格に従って「一生事務のまま」「決算担当のまま」、上にも横にも閉じられた「箱」の中でキャリアを全うする。そのさまを、彼らは「籠の鳥」「箱の中のネズミ」と自嘲気味に語ったりします。年収も硬直的で、20代のころ300万円くらいだったものが、50歳になっても350万円くらいになるのがほとんどです。
同じ仕事を長くしていれば熟練度は上がり、同時に倦怠感も高まるという2つの理由で労働時間は短くなります。だから欧州(とりわけ大陸系国)の労働時間は短く、雇用者の年間労働時間が1500~1600時間程度に抑えられる国が多いのです。日本のフルタイマー雇用者の年間労働時間が2000時間程度であるのと比べると、400~500時間も短くなっています。ドイツやフランスでは残業はほとんどなく(もしくは代休を確実に取得させられ)、有給も完全消化します。この欧州型の「300万~400万円」で働く人こそ、本当の意味でジョブ型労働者といえるでしょう。
それを超えたエリート層(仏でいう「カードル」)たちは、昇進していくためには、「マルチジョブ/マルチファンクション/マルチリージョン」の経験が必要といわれ、重要な職務を数多く経験していきます。異動の際には企業から異動指令が出されます。もちろん日本のように強制ではなく、本人に拒否権はありますが、エリートの彼らは、多くの場合指令に従います。日本型の無限定雇用とそんなに違いはないと言えるでしょう。
重要な職務の階段を上る例として「マルチリージョン」を挙げるとすると、最初はフランス本国、続いて欧州内、さらに米国、その後は言葉も通じ、自国の文化も比較的浸透している旧植民地国、最後にアジア、などといった形で、(この通りでなくとも)難易度を徐々に上げていく仕組みになっているところも日本と似ています。
一方、年収300万~400万円のジョブ型労働者は、例えば今の仕事が機械化などで不要となった場合、職業訓練所に通い、新たな職業資格を取ることになります(その間は有給休暇となる)。フランスの公的職業訓練校の取得免許レベルを見ると、99%が「高卒・短大卒相応」であり、1つの「籠」から出たとしても結局、年収300~400万円の別の籠に移るだけの生活を、一生している人が多くなっています。
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