全国で旅館やホテルを運営する星野リゾートの星野佳路代表と40万部超ヒットの『人新世の「資本論」』著者、斎藤幸平氏が対談。地球環境問題や格差問題に対して、企業経営はどう臨むべきかをじっくり語り合った。

後編はこちら)

星野リゾートの星野佳路代表(右、写真:栗原克己)と、大阪市立大学の斎藤幸平准教授(左、写真:宮田昌彦)
星野リゾートの星野佳路代表(右、写真:栗原克己)と、大阪市立大学の斎藤幸平准教授(左、写真:宮田昌彦)

星野佳路氏(以下、星野氏):私は近代経済学を学んできましたし、経営者という職業ですから「企業には成長が必要だ」と当たり前にように捉えてきました。一方で働いている社員にできる限り報いることや社員の働く環境といったいわば「社会主義的な考え方」も自分から遠いとは思ってきませんでした。星野リゾートはホテルを運営する会社でありそこには投資家がいますが、「社員の給料や仕事環境が整わないと運営しない」とずっと言ってきました。

 このため、投資家には比較的厳しいマネジメント会社だと思っていますが、それでも長い経営者人生の中で「企業には成長が必要」と「社会主義的な考え方」の間に矛盾のようなものを感じてきました。それが斎藤先生の著書『人新世の「資本論」』を読み、経営と脱成長が両立できることを知り、もやもやが晴れてきた印象を持ちました。

斎藤幸平氏(以下、斎藤氏):星野代表がそのように考えるのは、コロナ禍でも露わになった「いきすぎた資本主義」の問題とつながっていると思います。

 いわゆる新自由主義の下で、企業をめぐるステークホルダーのうち、株主にばかり配当として多くのお金が回り、現場では低賃金の非正規雇用が増え、格差が拡大してきました。コロナ禍でも、彼らが真っ先にクビを切られ、困窮しました。コロナ禍で多くの労働者が苦しむ現実を前に、経営者にしても、会社の業績や他社との競争を考えなければいけない一方、「単にお金をもうけるだけ」「株主だけのことを考える時代」は、やはりよくないと思い始めています。企業は脱成長ではなく公益資本主義を掲げるでしょうが、経営者と問題意識がシェアできている状況は、新自由主義が終わりつつある兆候だと思います。このままのやり方では持続可能でないので、中長期的な視点から持続可能で皆がもっと幸せな社会をつくる必要性を、立場を超えて多くの人が感じている。そこにコロナ禍以上の危機である気候変動に立ち向かい、状況を変えていくチャンスがあると強く感じます。

星野氏:『人新世の「資本論」』では、気候変動という地球環境問題と脱成長と結び付けて議論していますが、脱成長は気候変動と結びつけなくても、人の幸せ、社会のよりよいウェルビーイングとしてもあり得ると同書を読んで感じました。むしろ、「気候変動があるから脱成長しなければならない」とリンクされていることに少し残念さを感じました。

斎藤氏:なるほど。

星野氏:社会のあり方、会社という組織の長期的なサステナビリティー(持続可能性)という点から、脱成長という斎藤先生の理論は通用するのではないでしょうか。私はむしろ気候変動と関係のない流れの中で脱成長について理解することが大切だという印象があります。

斎藤氏:企業を経営している星野代表から脱成長の発想が出てくるのは興味深いことです。これまで経営者の方と話すと、環境問題の観点から脱成長の必要性は分かったが、それでは企業が潰れてしまうという反応が大半でした。ぜひ、もっと詳しく聞かせてください。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り7971文字 / 全文9338文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「Views」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

「キーエンスOBが明かす強さの根源」、全3回ウェビナー開催

■第1回:2022年5月19日(木)19時~(予定)
テーマ:顧客の心をつかむ、キーエンスの「営業しない」営業力
講師:FAプロダクツ 代表取締役会長 天野眞也氏

■第2回:6月2日(木)19:00~20:00(予定)
テーマ:潜在需要が宝の山 キーエンスの高収益生み出す商品開発
講師:コンセプト・シナジー 代表取締役 高杉康成氏

■第3回:6月16日(木)19:00~20:00(予定)
テーマ:「キーエンス流」は世界に通じる、海外事業開拓の極意
講師:インサイトアカデミー 顧問 藤田孝氏


会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。

>>詳細・申し込みはこちらの記事をご覧ください。