今の社会で炎上リスクを回避するには、情報発信に際し入念な注意を払う必要がある。より安全な戦略と考えられるのは、いっそ不特定多数への情報発信を見直すことだ。京都流「一見(いちげん)さんお断り」システムはそんな戦略を実践するうえで貴重なヒントになる。

 「企業による情報発信が本当に難しい時代になってきた」。湘南ストーリーブランディング研究所(神奈川県藤沢市)代表でコピーライターの川上徹也氏はこう話す。川上氏が身を置く広告業界では今、表現の問題を巡って頭を抱える同業者が少なくないという。これまでの常識なら称賛されたであろう「いい広告」ほど、炎上するリスクを抱える場合があるからだ。

 広告に必要なのは、多くの人を引き付ける訴求力。それを高める上で、とりわけ今の日本のような高齢化社会において有効なのが例えば「懐かしさ」の演出だ。しかし「故郷の風景」や「父母や祖父母との思い出」といった過去の描写には、現代では問題視される「当時の常識」が映り込む危険性がある。

エプロンは“危険なアイテム”?

 都内在住のCMプランナーは、娘と母の交流を描く際、母親役の女性をエプロン姿にしようとしたところ、クライアント企業からNGが出た。「エプロンが、『家事をするのは女性の役割』というジェンダー・バイアスを助長するアイテム、との発想自体が自分の中になかった」と振り返る。

エプロン姿も「家事をするのは女性の役割」という固定観念だと受け取られかねない(写真:PIXTA)

 「訴える対象の絞り込み」も訴求力を高める手法の一つだ。だが日用品メーカーが、例えば、肌荒れしにくいキッチン用洗剤の広告で「女性にやさしい」「ママにやさしい」などと打ち出せばどうなるか。「家事従事者=女性」と限定している印象を抱かせるとして、これまでならともかく今後は“審議の対象”になりかねない。

 対策の一つは、伝えたい内容を維持したまま言葉を変えることだが、これも難しい。「おふくろの味」を「実家の味」に、「女性にやさしい」を「家事従事者にやさしい」にすると宣伝としての印象は相当異なってしまう。

 定番の広告用語の中には、より“安全なフレーズ”もある。例えば「こだわり」だ。「こだわりの製法」「こだわりの味」「こだわりの品揃え」――。多くの企業が愛用するこの無難なフレーズは、自社の商品やサービスの伝統をアピールしているだけで、人権・男女平等・コンプライアンスなどの観点から取り沙汰される可能性は限りなく低い。

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この記事はシリーズ「情報発信というリスク 多発する企業炎上どう防ぐ?」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。