パンデミック、飢餓、天変地異、戦争……古来、人類は災厄と戦ってきた。そして画家はそれを連綿と描き続けてきた。そこには人々が災厄に対してどう行動し、どんな敗れ方をし、はたまたどうやって乗り越えたかが、多彩な表現で提示され、あらゆる芸術がそうであるように、人間の本質を捉えようとする真摯な試みが見られる。この連載では、そうした名画の数々を見ていく。
シリーズ
中野京子の「災厄の絵画史」

17回
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第一次世界大戦とスペイン風邪
ご好評をいただいた『中野京子の「災厄の絵画史」』も今回が最終回。20世紀初頭の第一次世界大戦と、その戦争を終結に導いたとされるパンデミックがテーマです。すでに写真の時代になっていましたが、画家たちはその絵画表現で生々しい…
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結核のロマンティシズムと現実
とかく美化され、さまざまな芸術作品でロマンティックに描かれがちだった結核。しかし「白いペスト」とも呼ばれたこの感染症は、産業革命とともに急激に広がり、多くの人々の命を奪ってきました。今回は、ムンクの『病める子』をはじめ、…
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アイルランドのジャガイモ飢饉
アイルランドの近現代史は、イギリスによる簒奪(さんだつ)と迫害の歴史でした。19世紀ヨーロッパ最悪の大飢饉である「ジャガイモ飢饉」のさなかも、それは変わることはありません。困窮したアイルランド人たちの惨状を、画家たちはイ…
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ナポレオンという災い
稀代の英雄と崇める人々がいる一方で、「コルシカの怪物」「食人鬼」として憎まれたナポレオン。ヨーロッパの多くの国々とその植民地を含む広範な地域を戦禍に巻き込み、数百万人とも言われる犠牲者を出しました。ナポレオンについては多…
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コレラの惨禍 死をもたらす神の使い
インドの風土病だったコレラは、19世紀に入ってから世界的なパンデミックとなり、ペストと同様、多くの命を奪いました。今回は、生きたまま埋葬されかねない恐怖を描いたヴィ―ルツの絵画、そして疫病による惨禍を「悪魔を引き連れた天…
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洪水、そして名画の数奇な運命
河川と共に生活する都市にあって、洪水は避け難い災害です。今回は、18世紀のペテルブルク、19世紀のパリ郊外、20世紀のロンドンに起こった記録的な河川の氾濫と、関連する絵画をご紹介します。特にドラローシュ作『レディ・ジェー…
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天然痘の恐怖とワクチン騒動
南米のアステカ王国・インカ帝国滅亡の引き金になったとされ、長きにわたり猛威を振るった天然痘。ジェンナーによる牛痘が登場するまで、多くの人々を恐れさせてきました。今回は、イギリスの歴史画家、アーネスト・ボードによるジェンナ…
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戦争のアレゴリー(寓意画)
英雄たちを讃える絵画を描く一方で、画家たちは反戦の思いと平和への願いを作品に託しました。アレゴリー(抽象概念や思考や理念の図像化)の表現技法を使った名画は、何百年もたった現在に通じる普遍性を持っています。今回は「王の画家…
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梅毒の猛威、疫病が照らす社会の暗部
15世紀末よりヨーロッパに蔓延した梅毒。当初は性病としては症状が急性で激烈だったため、大パニックを巻き起こしました。今回は、2017年の「怖い絵展」(筆者特別監修)でも大きな話題を呼んだホガースの『ジン横丁』ほか、梅毒に…
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ペストの波状攻撃
ロミオとジュリエットの悲恋を演出したのは、ペストの蔓延だった――欧州各国は、何度も疫病の脅威にさらされました。多くの犠牲を出しながらも力強く復活してきた様子を、画家たちは描き残しています。今回は、風景画家アントニオ・カナ…
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大火と絵画、西洋人が描いた「江戸の華」
古来、人間の生活を脅かしてきた火事。多くの画家たちがその様子を描いてきましたが、今回はちょっと変わった絵をご紹介します。どことなく緊迫感に欠けるコジモの『山の火事』。山火事が題材に選ばれること自体があまりありません。そし…
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三十年戦争 最大最後の宗教戦争
17世紀ドイツを主戦場とした三十年戦争。内乱から宗教戦争、そして国際紛争へと拡大した争いは、一般の人々にとっては災厄以外の何ものでもありませんでした。今回はグスタフ・アドルフとヴァレンシュタインという、三十年戦争における…
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中世の疫病 パンデミックと「死の舞踏」
中世の人々を恐怖のどん底に陥れたペスト(黒死病)。ヨーロッパの人口の3分の1を奪ったとされるこの災厄を、画家たちはどこかユーモラスに描きます。生き生きと(?)暴れまわるたくさんの骸骨たちが登場するブリューゲルの作品などを…
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古代の天変地異 神の怒りと跡形もなく消えた町
神の怒りに触れ、焼き尽くされたソドムとゴモラ。火山の噴火により跡形もなく消えたポンペイ――古代の人々を襲った天変地異を、画家たちは激しく、冷徹な筆致で描き出します。「怖い絵展」でも人気の高かったモローの『ソドムの天使』を…
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古代の戦争
紀元前の昔から、人類は数多の戦争を起こしてきた。そしてそれを芸術家が戦争画として描き続ける。ペルシアvsギリシアの戦争から2300年近く経ってジャック=ルイ・ダヴィッドによって描かれた『テルモピュライのレオニダス』。そし…
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大洪水と方舟(旧約聖書時代)
人類の悪徳の蔓延に神の怒りがくだり、洪水によって滅亡する――旧約聖書に登場する「ノアの方舟」にまつわる絵画を紹介する。未曽有の災害の中で助け合う人々を描いたミケランジェロの天井画。一筋の希望を鳩の絵に託したミレイ。人類の…
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災厄を呼ぶ神々の騎行
パンデミック、飢餓、天変地異、戦争……古来、人類は災厄と戦ってきた。そして画家はそれを連綿と描き続けてきた。そこには人々が災厄に対してどう行動し、どんな敗れ方をし、はたまたどうやって乗り越えたかが、多彩な表現で提示され、…
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70歳定年 あなたを待ち受ける天国と地獄
従業員の希望に応じて70歳まで働く場を確保することを企業の努力義務として定めた、改正高齢者雇用安定法が2021年…
全8回