独特な味を生み出す栽培方法

「うちのトマトは完熟してから収穫する形なんですが、取引先にもよく『独特な味がしますね』って言われます。いろんな品種があるのですが、ベースの味には共通する部分があるようです」

トマトは青いうちに収穫して、流通する間に色づき、店頭に並ぶのが普通。樹になった状態で完熟させたトマトは甘い、というのは理解できるのですが、この「独特な味」はどこで生まれるのでしょうか。

トマトの手入れをする小野貴之さん(42歳)
トマトの手入れをする小野貴之さん(42歳)

 「味をつくるのは光合成産物やアミノ酸、鉄やマンガンなど様々な微量要素を基にした栄養素です。うちの農園では、土壌分析をすることで、それらを過不足なくバランスよく与えるようにしています。例えば、人間は鉄分が不足すると貧血になったり、カルシウムが不足すると骨が弱くなったりするじゃないですか。植物も同じなんです。例えば『硫黄』もタンパク質合成や風味の要素として大事なものなんですよね」

 なるほど。植物生理を理解して、健康な状態を維持することで、トマトの味を最大限に引き出す、というのが味の秘密。最近は気候変動の影響や天候不順などで収量や品質にばらつきが出やすい中、おいしい作物を安定的に出荷している生産者にはこういった科学的な思考で農業に取り組んでいる共通点がある気がします。

 作物には「窒素、リン酸、カリ」の養分を与えておけばいい、というのは昔の話。今では土壌分析をきちんと行い、ミネラル分を管理することの重要性が増しています。こうした意識はトマトだけでなく、これからの農業には絶対に必要なことだと思いました。

農法と理論は手段であって目的ではない

 小野さんが、農業の世界に足を踏み入れたのは、20代の時にタイやトルコなど様々な国々を巡りながら半年かけてバックパッカーをした経験がきっかけ。当初は、一度携わった調理師の仕事に戻ろうと考えていたそうですが、旅先で目にする壮大な景色に心を打たれ、そして自然に敬意を払う人々と出会う中で、自国の農業に対する畏敬の念が芽生えた、とのこと。

バックパッカーをしていたときの小野さん
バックパッカーをしていたときの小野さん

 小野さんの父親は公務員の兼業農家。幸いなことに実家に土地はあったので、帰国してからは農業を始める準備のために奔走。研修費を稼ぐために自動車工場で働き、農業法人サラダボウルに研修生として入ります。

 そこでたまたま担当したのがトマト。手間をかけるほど、おいしくなるトマトに魅せられて、さらにそこで学んだ植物生理に基づく栽培理論を基に、今も日々農業に取り組んでいます。

 「肥培管理や経営に追われてしまいがちな日々ですが、毎年アップデートをして新しいものを見るようにしています。ハウスひとつとっても土の状態によって変わりますし、陽の当たり方、地下水の状態、風の吹き方、肥料のバランスによって変わるので、一つひとつ検証しながら積み上げていく感じです」

 小野さんのポリシーは、一つの農法だけにこだわらないこと。

 「農法と理論は手段であって、目的ではないと思うのです。自分が何のためにこれをやっているか。それは慣行や有機、自然農法でもあり得るし、いろんな農法をミックスする中で探し続けることもできる。つまり常に観察眼を持つことが必要だと思います」

 農業に対しても固定観念なく広い視野で物事を見る。世界中で様々な環境に身を置いてきた経験が役に立っているのでしょうか。

ビニールハウスでこまめな栽培調整を行う
ビニールハウスでこまめな栽培調整を行う

次ページ トマトはいつがおいしい?