日本には、その土地の気候風土に根差した個性豊かな食材がたくさんあり、その裏には、必ずそれに携わった作り手がいます。私は、農林水産省で働きつつ、休日はそのおいしさの源である産地へ出向き、作り手の声に耳を傾けた上で、その食材を料理し、伝えることをライフワークとしています。この連載では、まだまだ知られていないおいしい食材を一つひとつひもときながら、レシピと共にお伝えします。

 今回のテーマは「とうもろこし」。

 夏真っ盛り。とうもろこしのおいしい季節です。最近はスーパーでも「ピュアホワイト」「ゴールドラッシュ」「味来(みらい)」などいろいろな品種が売られています。

 一方、その品種を、各地域の環境に合わせて栽培しブランド化した「ブランドとうもろこし」も存在します。今回、紹介する北海道江別市の「滝農園」の滝一芳さんは、品種名ではなくブランド名「しろみつとろきび」という名前で販売している生産者。私が、滝さんのとうもろこしを知ったのも、そのブランド「SNOW JEWELS」が発信しているSNSでした。

糖度だけではなく「うまみ」に特化

 SNSには「口コミだけで完売」との文字が。市場やスーパーでは手に入らない幻のとうもろこしに興味が湧き、北海道江別市の畑を訪れました。

 滝さんは、代々続く農家の4代目。4ヘクタール、およそ東京ドーム1個分の畑で、毎年約20万本のとうもろこしを作っているそう。

滝農園の滝一芳さん
滝農園の滝一芳さん

 まず、出会ってから挨拶もそぞろに「ほら、食べてみ」と差し出されたとうもろこしを、ガブリと食べて驚きました。したたるエキスを倉庫の床の上に落としながら、最初に感じたのが蜜のような甘み。そして口中になんとも言えないうまみが広がったのです。

 「糖度が高いとうもろこしは世の中にたくさんある。うちのは、生で食べておいしく、うまみの濃いものにこだわって作ってるんですよ」

 確かに、甘さだけではないうまさを強く感じます。生で食べたのですが、とうもろこし特有の粉っぽさも一切ありません。とはいえ、糖度も平均して16度以上はあるので、したたる蜜はシロップのようです。

 滝農園では、主な作物としてしろみつとろきびを20年間作り続けています。

 「このとうきび以外は作りたくないんです。本当はお客さんの口に入ることを考えて収穫して、3日目に一番おいしくなるように育てたい。でも、そんなこと普通、ありえないんですよね。でも、ありえないことをやりたいんですよ。自分たちでも収穫してすぐ、1日たったもの、2日たったものという具合に味見して確かめるんですが、採れたてよりも1日たったほうがおいしいってみんな言いますね」

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