アパレル業から、老舗の海苔屋へ
沼田さんはアパレル業界(Gap Japanの店長)で17年働いたのち、実家の海苔屋を継ぎました。その異色ともいえる経歴を知るとうなずけるのは、売り方が従来の海苔屋さんと大きく異なること。海苔のパッケージに書かれてある呪文のような言葉もその1つ。

「商品名には必ず『漁場+等級』を付けています。例えば『芦刈壱重1(あしかりいちじゅういち)』は、『芦刈』で採れた『壱重1』という等級の海苔になります」
ちなみにやわらかい有明の海苔は巻物には向かないといわれていますが「重」という厚みのあるものだと巻物向きとのこと。等級は海苔を選ぶ際の目安になります。市販の海苔でも漁場や等級の一部を商品名に付けているケースはありますが、ここまで情報を開示し、かつバリエーションに富んでいるのは、おそらく日本でもここだけ。つまり、ぬま田海苔では好きな洋服のブランドの店に入り、気に入った色を見つけて試着をし、サイズに合ったものを買うように、自分の好みにピッタリの海苔を見つけることができるのです。

「内装やレイアウトにもこだわりました。Gap Japanの店舗では、お客様がイメージしやすいように、おすすめのコーディネートをマネキンに着せますが、海苔屋では、産地や食卓でのイメージを持ってもらうために、導線上に漁場や有明海の地図、お皿の上にのった状態の写真を飾っています。また、なるべくシンプルな構成にして、海苔の個性を追求したブランドであることを表現しました」
海外のお客さんの意外な反応
沼田さんが、合羽橋に店舗を構えたのは「調理器具にこだわる人は、絶対に食材にもこだわるはず」という戦略的な意味もあったそうです。また、日本の伝統食である海苔の魅力を世界へと発信するため、海外からのお客様が多いのも理由でした。新型コロナウイルスの影響が出る前は、来店客の3割が外国人のお客様だったほど。
「外国の方の中には海苔が苦手という人が一定数います。見た目が黒いとか、磯の香りが苦手、とよくいわれますが、実際に接客してみると敬遠される理由は大きく2つ。『海苔のおいしさを知らない』『食べ方が分からない』です。海外ではおいしい海苔が少ないので、あまりよくないものに出合うとやはり印象が悪くなってしまうんですね」
初摘み海苔を試食してもらうと「こんなに口溶けがいいなんて!」「味付けしていないのにおいしい!」とポジティブな反応が多いそう。
「食べ方に関しても『海苔=寿司』と思っている人がやはり多い。それだと食べる機会も限られるので、うちではチーズやバターなどとのペアリングを提案しています」
味を知ってもらうことで海外の海苔ファンは確実に増加。気に入ってくれた方からのリピートは多く、年に4回買い付けに来てくれる方もいたそうで、現在でも、メールやDMから海外向けの注文を受けています。
「海外の方に海苔が好まれると聞くと『海苔って日本人しか食べないんでしょう。外国の方は消化ができないらしいし』という方がいます。まず、消化ができないというのは誤解で、焼き海苔は誰でも消化できます。『生の海苔を消化できるのは日本人だけ』という説がどこかで『海苔は日本人にしか消化できない』というふうに誤解されてしまったのでは」
お客様の中には海外の有名パティシエやシェフも多く、おいしさは万国共通ということですね。

Powered by リゾーム?