温浴施設とコラボ

 温浴施設とコラボを始めたのは2018年のこと。温泉道場が運営する「おふろcafé utatane」の担当者からSNSで精力的に発信していた的場さんに連絡があったのがきっかけだそう。

 「当初は日本茶の茶葉をティーバッグのようにしてお風呂に浮かべる、という話でしたが、ブレーンストーミングの時点でいろいろなことを提案させてもらいました。例えばフィンランド流の蒸気浴『ロウリュウ」をアレンジし、アロマオイル代わりの日本茶で熱々の水蒸気を発生させるとか、お茶の木を束ねたヴィヒタ(本来はシラカバの若枝を束ねたもので、サウナや浴室で全身をたたくようにして使う)をサウナで使ってもらうとか……。その中に入浴後に飲むスパークリンググリーンティーもありました」

 運営している温泉道場の理念は「温泉を核とした地域活性化」。ちょうど的場さんが日ごろからためていたアイデアがうまくマッチした形となり、このコラボは話題となります。

温浴施設とのコラボで使った日本茶
温浴施設とのコラボで使った日本茶

 「サウナと日本茶の共通点は、リラックス。温かいお茶を飲んでサウナに入り、冷茶で喉をうるおす。日本茶には紅茶やほうじ茶では出せないリラックス効果があるので、サウナの後にはいいんじゃないか、と」

 こうしたアイデアはどんなところから出てくるのでしょうか。

 「こういう取り組みというのは1人でできることじゃないですよね。なにより狭山茶が培ってきた文化がある。環境としてはすごく強いんです。例えば自分がお茶について何か調べよう、と思ったら近所にお茶博物館があります。そこにはあらゆる文献がずらっとそろっています」

 リサーチ以外にも人とのコミュニケーションもアイデアの源泉だそう。

 「毎朝30分間、家族でお茶を飲む時間を必ずつくるようにしています。その日にしたいことや日ごろのアイデアなどを共有する場として、10年間ずっと続けています。信頼関係は日々のコミュニケーションでしか築けないと思っています」

 全く違う業界から入ってきたわけですが、今では周りから「茶業が天職だね」と言われるまでになったそう。対話を積み重ねていきながら、常識にとらわれない大胆な取り組みを続けていく経営スタイルが今後も楽しみです。目下の構想は茶畑サウナとのこと。

 総務省家計調査によるとお茶の消費量は下がっていたものの、2020年はわずかながら回復に転じています(前年比1.0%増)。また、緑茶の飲用に関する意識・意向調査によると若い世代(18~29歳)の26%が「茶葉からお茶をいれる機会が増えた」と回答しています。その背景には新型コロナウイルスの感染拡大があるでしょう。輸出に関しても2020年の輸出額は過去最高を記録しています。お茶の世界にはまだまだ大きな可能性が眠っているのです。

 的場さんと話していて感じたのは、農業界には習慣や常識にとらわれない柔軟な発想が求められているのではないか、ということ。単に「おいしい」や「体にいい」とPRするだけではお茶のファンは増えません。的場さんが取り組んでいるように「お茶を飲む(体験する)機会」を増やし「お茶を飲む時間」をつくる仕掛けが必要です。これは他の農産物にも共通して言えることではないでしょうか?

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