おいしい野菜は人が決めること

ただ、武井さんは「おいしい野菜」とは自分で言わないようにしているそう。

 「おいしいという感覚は主観なので、お客さんが感じるものです。生産者にできる努力は『おいしく見せる』ことだけです。うちはレストラン向けの野菜なので、種を仕入れるときは前提として食味のいい品種を厳選しています。例えばじゃがいもだとマッシュポテトに最適なデフラとか、フライドポテトにはサッシーが合う、とか。そうした努力をした上で、お客さんがSNSなどで『武井さんのじゃがいもが日本一おいしい』と言ってくれれば、それが正解になるんじゃないか、と」

 見せ方はパッケージだけではなく、シールの厚さや色にもこだわります。販売の際に野菜がかっこよく見える面を表にするなど、商品には細心の注意を払います。その徹底ぶりはすごいもので、例えば収穫した野菜を軽トラックに積んでおくようなことは絶対にしません。収穫後、適切に処理をし、冷房の効いた車で冷やしながら運ぶそうです。武井さんは自身のブログでそれらの方法を惜しみなく披露しています。

 「最初は日記的なブログだったんですが、今は、シェフの方向けに調理方法や農家の人が使える収益を上げるコツなども伝えるようにしています。多くの方に読んでもらえていますが、農業のイメージを変えていきたいんですよね」

ブーツでかっこよく農業をするのが武井さんのスタイル
ブーツでかっこよく農業をするのが武井さんのスタイル

1年は11カ月、1日4~6時間だけ働く

 たったひとりでタケイファームを営む武井さんは、そのコツも多くの人に広く伝授しています。

 「例えば小松菜だったら、収穫してしまうともう1度耕さないといけない。でもこの方法だったら摘んでいくだけで何度も収穫できるんです」

 とケールの脇芽を摘む武井さん。ふわっと柔らかいケールをそのまま食べさせてもらったのですが、あまりのおいしさに感動しました。

柔らかくおいしいケールの脇芽
柔らかくおいしいケールの脇芽

 「朝、犬の散歩をしてからその日やるべきことを決めて9時から畑の仕事をする。いろんなことをやめたら時間が生まれます。そして仕事が終わったら13時か14時くらい。その後は東京へ出向いてレストランなどで打ち合わせをする。それが仕事のサイクルです」

 午後の空いた時間を利用して、レストランへ打ち合わせに赴いたり、つながりのあるシェフの店に食べに行ったりすることも多いそう。そうした活動からシェフが欲しい野菜をくみ取り、日々の仕事に生かすそうです。共同でマルシェを開催したときは、その売り上げで、仲間たちとフランスへ行き、海外の事情を視察するなど、活動は多岐にわたります。

 「年収は11カ月で割るようにしています。そうすれば1カ月は好きなことに使えるじゃないですか」

 レストランを中心に卸している武井さんもコロナのときは、売り上げが減少したそう。しかし、スーパーへ売ることはしませんでした。目先の利益よりも自分のスタイルを崩さないこと。結果としてそれが自身のブランドを守り、レストランからの信頼につながっているようです。

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