日本には、その土地の気候風土に根差した個性豊かな食材がたくさんあり、その裏には、必ずそれに携わった作り手がいます。私は、農林水産省で働きつつ、休日はそのおいしさの源である産地へ出向き、作り手の声に耳を傾けた上で、その食材を料理し、伝えることをライフワークとしています。この連載では、まだまだ知られていないおいしい食材を一つひとつひもときながら、レシピと共にお伝えします。

 第11回のテーマは「レストラン向け野菜」

 現在、農業は多様化の時代を迎えています。農業に取り組む法人が増えたり、世代交代が進んだりするなか、新しい販路や栽培方法などに取り組む若手農家の活躍も目立ちます。

 ざっくりと説明すると、大規模生産農家は一つの作物に特化した単一栽培(モノカルチャー)的なスタイルで日本の食料の安定化を支えています。また、小規模農家は少量多品種栽培でリスクヘッジをしながらより高付加価値な野菜を生産しています。こうした2つの方向性が進んでいる状況と言えるのではないでしょうか。

 私が特に注目しているのが個性的な小規模農家。その先駆者が、今回紹介するタケイファーム(千葉県松戸市)の武井敏信さんです。50代の武井さんは農業の世界ではレジェンド的な存在で、多くの若手から参考にされています。95%以上をレストラン向けに出荷しているタケイファームの野菜はすでにブランドで、その品質の高さにシェフたちから絶大な信頼が寄せられています。

 私が武井さんと初めて出会ったのは、6年前の畑でのイベントでした。千葉県の農業者たちが共同で開催したイベントには100名以上が参加していましたが、武井さんはその中心メンバーでした。その際、年間約140種類もの野菜を育てていると聞き、畑までお話を聞きに行きました。

千葉県松戸市にあるタケイファーム代表の武井敏信さん(55歳)
千葉県松戸市にあるタケイファーム代表の武井敏信さん(55歳)

1分で野菜を「締め」て、レストランへ

 小さな畑の中にあったのは、ケールやオゼイユ、オイスターリーフといったスーパーにはない珍しい野菜たち。たくさんの野菜を丁寧に扱う様子が印象的でした。

 武井さんの野菜の収穫方法は独特です。

 「はじめは大根も葉付きで出荷しなきゃ、と思っていたんですよ。それが野菜のあるべき姿だろうと思っていました。けれど、葉っぱに付く土を洗ったり、虫をよけたりするのに手間がかかり、何よりも大事な根っこの部分の鮮度がみるみるうちに落ちていくんです。だから私は、品質を最優先するために、収穫後1分以内に、葉っぱを切り落とすことにしたんです」

 収穫後は時間との勝負。大根は葉っぱを切り落としすぐ袋詰めをし、段ボールに次々と入れていきます。ブロッコリーは作業場のシンクにためた水の中で茎を切り落とします。切り花と同じように処理することで鮮度が保たれるそう。

 たしかに料理の本には「大根を買ったら葉を切り落としましょう」と書いてあります。大根は収穫後も生きていて、葉を維持するために栄養を消費してしまうからです。葉を切り落とした方が長持ちするのは理にかなっていますが、出荷段階でそこまで注意を払っているのは驚きです。

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