出来たてを味わってもらいたい、との思いから、当初の商品ラインアップは、モッツァレラとリコッタだけでした。その後、モッツァレラと同じ製法のカチョカヴァロが加わります。そして、次に登場したのが現在の主力商品である「東京ブッラータ」です。

 ブッラータは、イタリア・プーリア州発祥の個性派チーズで当時、アメリカなどでは話題になっていましたが、希少で高価格だったことから「幻のチーズ」と呼ばれていました。ある日、都内飲食店のシェフからの要望を受けて日本で初めて製造・商品化に成功。CHEESE STANDが国産の生乳を使った「東京ブッラータ」を商品化したことから話題になりました。藤川さんはブッラータブームの火付け役だったのです。

(左から)ブッラータ、モッツァレラ、リコッタ
(左から)ブッラータ、モッツァレラ、リコッタ

原料のミルクも東京都内の牧場から

 東京23区でチーズ工房を作った事例がそれまでなく、藤川さん自身も酪農の仕組みに詳しくなかったことから、製造許可を取得することも、都内の牧場から仕入れをすることも苦労の連続だったそうです。

 「東京のミルクだけを使って東京で作っているチーズというのを売りにしていますが、まだまだ知られていません。いつも決まって聞かれるのが『北海道から仕入れているんですか?』ということ。東京に牧場があったんですねとびっくりされることもあるんです」

 立ち上げ当初は1軒の牧場から生乳を仕入れていましたが、ピンチはすぐにやってきました。取引先が突如、配送ができないと言ってきたそうです。「腰を痛めてしまってミルクを毎朝運べなくなった。業務が立て込んできたこともあり配送をやめたい」と。主原料であるミルクが手に入らない状況に藤川さんは青ざめます。

 リスクを分散するために、藤川さんは東京都酪農業協同組合と交渉を重ね、最終的には都内にある複数の酪農家から仕入れをすることにしました。東京の酪農家は現在40軒ありますが、そのうち6軒から集められたミルクがタンクローリーで毎朝3時には工房へ届くそう。

自在に伸びるフレッシュチーズ
自在に伸びるフレッシュチーズ

 「やはり、牛は生き物なので、生乳の味は季節によって変わります。冬の生乳はこってり、夏は牛がたくさん水を飲むので、さっぱりしています。それらの変化に応じて、作り方を微妙に変えることで、味を安定させるのが職人の技術です」

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