「おいしさはサイエンス」

 菅さんが掲げているのは「おいしさはサイエンス」という理念。農園として取り組んでいるのは科学的根拠に基づいた土づくりです。微生物が住みやすい状態をつくることが重要、とのことで、論より証拠とばかりに菅さんは畑に1.2メートルもある細長い鉄筋を差し込みます。

歩くと土がふかふかなことが分かります
歩くと土がふかふかなことが分かります

 すると、鉄筋がするすると入ってしまうのです。やわらかい土にびっしりと力強い根が張ることで、菅さんのレモンは高い糖度になります。

 「糖度が6~7度の外国産に比べて、完熟の国産レモンは糖度が10度くらいあることも。うちのレモンの最高値が13度を超した時はさすがに驚いた」

 糖度13度は、フルーツでいうと苺(いちご)や桃と同じレベルなので確かに驚きです。開業以来、一貫して行っているのは「塩レモン」や「レモンシロップ」などレモンを丸ごと使い切る、つまり「食べるフルーツ」としての提案です。

 昔からレモンというと揚げ物やサラダに添えられている「飾り」であることがほとんど。肉や魚のようなメインの食材にはなり得ない、薬味や調味料としての役割で、時には食べられずに捨てられることもありました。単なる飾りではなく食べるフルーツとしてアピールすることで、安価な輸入レモンとは違う需要を掘り起こしたのです。

 菅さんのレモンはすぐに高い支持を集め、現在の顧客は300件以上。しかし、そんな菅さんもレモン農家を始めた当初は、顧客が3件しかなかったそうです。

 「瀬戸田は日本で一番レモンを生産しとるけど、当初はレモン農家と名乗っている人はおらんかった。自分は『レモンのおっさん』と名乗ることでメディアに取り上げてもらう機会も増えて、取引先が増えていった。今では、生産が追い付かず、人手が欲しいくらいよ」

 夏まで売れるように貯蔵したり、冷凍したりはしないのか、と聞いてみたところ「貯蔵するほど余裕がなくってね。冷凍は香りが飛んでしまうけぇ、やっぱりおいしい生果のまま、みんなに味わってほしいんよ」と菅さん。

 収穫したものをABCランクに選別し、Cランクのものはジュースにして販売していますが、4月に搾汁し720mlをボトリングしたジュースも8月には全て売り切れてしまうとのこと。

レモン100%の果汁。レモネードなどのドリンクや料理にも使われる。
レモン100%の果汁。レモネードなどのドリンクや料理にも使われる。

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