日本には、その土地の気候風土に根差した個性豊かな食材がたくさんあり、その裏には、必ずそれに携わった作り手がいます。私は、農林水産省で働きつつ、休日はそのおいしさの源である産地へ出向き、作り手の声に耳を傾けた上で、その食材を料理し、伝えることをライフワークとしています。この連載では、まだまだ知られていないおいしい食材を一つひとつひもときながら、レシピと共にお伝えします。

 第2回のテーマは「レモン」。

 暑い夏にレモンをギュッと絞って、キーンと冷やしたサワーやスカッシュを飲みたくなりますが、日本での旬は、実は夏ではありません。意外と知られていませんが、国産レモンの収穫時期は10月~5月上旬、冬から春が中心です。

 私も大好きなレモンサワー。このブームが始まったのは2017年くらいからですが、昨今商品が激増。コンビニなどに行くと種類が多過ぎて、どれを選んでよいか迷うほどです。

 「ホットペッパーグルメ外食総研」が2020年に実施したアンケートでは20代〜50代男女の5割以上が「今後も外食でレモンサワーを飲みたいと思う」と回答し、なかでも20代の男女共に支持する人が6割以上ということから、若者に一番人気のアルコール類と言っても過言ではないでしょう。

幅広い層に人気のレモンサワー
幅広い層に人気のレモンサワー

 数多くあるレモンサワーのなかで「究極のレモンサワー」を売りにする農家がいます。「citrusfarms たてみち屋」の菅秀和さんがその人。すでにメディアなどでも多く露出されていますが、今日は彼のことをご紹介します。

 私が、菅さんと初めて出会ったのは、今からもう7年も前。広島県尾道市瀬戸田のレモン畑でした。

 車を走らせ、尾道からしまなみ海道を渡って3つ目の島「生口島」で降りると、そこが瀬戸田です。道路の脇まで鈴なりに実をつけるレモンのカーテンをくぐると、菅さんの農園に着きます。あたりに漂うのは瀬戸内海の潮風に運ばれてくる柑橘(かんきつ)の爽やかな香り。

「食べておいしいレモン」を生産する菅秀和さん
「食べておいしいレモン」を生産する菅秀和さん

 「天気予報が雨でも、なぜか瀬戸田周辺は降ってなかったりするほど雨が少なくて、日照時間も長いけぇ、甘くて色のきれいな柑橘ができやすいんよ」

 瀬戸内海の島々は、言わずと知れたレモン産地。その理由は温暖な気候にあります。現在、国産レモンは、日本の全流通量の約1割で、その7割以上が瀬戸内海周辺を中心に愛媛県と広島県で占めています。国産レモンの流通量はわずかですが、輸入レモンの収穫後に使用される農薬、いわゆる「ポストハーベスト」への懸念から、より安全・安心なレモンを求める声に応じて、シェアは大きくなっています。

 瀬戸田には多くの柑橘農家がありますが、栽培の8割以上をレモンが占めている農家は菅さんだけ。菅さんの経歴はユニークです。フランチャイズの飲食店のマネジャーや大型有機農業生産法人の営業マンなどを経験した後、元営業先だった観光農園の社長から柑橘栽培事業の誘いを受けたことから、レモン栽培を始めたそうです。その後、観光農園が事業から撤退したことを契機に独立し、就農7年目の現在は約3ヘクタールの柑橘園を切り盛りしています。

続きを読む 2/4 「おいしさはサイエンス」

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