日本には、その土地の気候風土に根差した個性豊かな食材がたくさんあり、その裏には、必ずそれに携わった作り手がいます。私は、農林水産省で働きつつ、休日はそのおいしさの源である産地へ出向き、作り手の声に耳を傾けた上で、その食材を料理し、伝えることをライフワークとしています。この連載では、まだまだ知られていないおいしい食材を一つひとつひもときながら、レシピと共にお伝えします。

 1回目は「ジビエ」を取り上げてみました。

 みなさんはジビエと聞いてどんなイメージを持ちますか? ぐるなびが毎年発表している、その年の日本の世相を反映し象徴する「今年の一皿」にジビエ料理が選ばれたのが2014年。それから6年以上たちましたが、日本の食卓に定着するにはまだ高いハードルがありそうです。

依然として低いジビエ利用率

 ジビエの消費は重要性を増しています。2019年度の野生鳥獣による農作物被害額は158億円と深刻な状況。そうした中で野生鳥獣の捕獲強化が進んでいますが、ジビエ利用率は、2018年度は鹿で13%、イノシシで6%となっており、依然として低い水準にとどまっています。つまり、とっている生き物を私たちはなかなか食べることができていないのです。

 とはいえ、ジビエの利用率は年々、増加しているのも確か。消費の中心はレストランなどの専門店です。今回、紹介する猟師の古田洋隆さんは日本のシェフたちから熱い支持を集めている人物。古田さんが手がけるジビエがプロから愛される秘密は「罠(わな)」にありました。

罠で仕留めて、瞬時に血を抜く

 私が、古田さんとお会いしたのは、雪もちらつくほど寒い1月の初旬でした。三重県津市の美杉地区は鳥獣の中でも特に鹿の害がひどく、年間500頭以上を駆除しているそうです。

 そんな地域で古田さんは、猟をしながら日々の生計を立てています。彼の狩猟スタイルは、銃や檻(おり)ではなく「罠」を使うこと。

世界中の猟師やシェフが注目する罠師、古田洋隆氏(66歳)
世界中の猟師やシェフが注目する罠師、古田洋隆氏(66歳)

 なぜ彼は罠にこだわるのでしょうか。

 「散弾銃で仕留めると絶命して血抜きができん。かといって檻で仕留めると暴れて体中が傷んでしまい、体温も上がって臭みも出るんや。生きた状態で罠で仕留めて、瞬時に血を抜きさばく。それで臭みが一切ない、柔らかい肉が出荷できる」

 料理人から注目を集める理由は、捕獲から解体まで、鹿を最もおいしい状態へ導くための一連のスキル。私が訪問した際も、つい先日、日本を代表する某フレンチシェフが訪ねてきた、と聞きました。

続きを読む 2/4 洋服の移動販売業から猟師へ

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