この連載では、英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」の約6000人の受講生のデータと学習工学に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。コメント欄でビジネス英語について何でもご質問ください。

 それでは今回も質問にお答えしていきたいと思います。

[今回の質問]

ソムリエ Aさん(32歳)
 ソムリエをしております。ソムリエの世界大会に参加したいと思い、半年前ぐらいから英会話教室に通っているのですが、レッスンのやり方に悩んでいます。

 英語は中学時代からあまり得意ではないので、真剣にレベルアップをしたいと思いネイティブの先生に厳しく指導してもらうようにお願いしています。ところが、文法や単語、発音について指摘を受けるうちにむしろ苦手意識が強くなって、英語で話すことをちゅうちょしてしまうようになりました。どのように指導をお願いするのがよいのでしょうか?

[回答]
 Aさん、ソムリエとして世界大会にチャレンジするのは素晴らしいと思います。ただ、英会話では苦労されているようですね。今のままでは確かに世界大会への参加までには時間がかかると思います。結論から言えば、「文法や単語、発音については指導を求めないで、自分の言いたいことを文字起こしし、スクリプトにしてチェックしてもらい、スピーチの練習をする」ことが必要だと思います。

 理由はいくつかあるのですが、第一に文法や単語の知識が足りない成人が英会話レッスンでインプットやアウトプットをしても意味がないからです。自分で文章を組み立てることができるようにはならないでしょう。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 そもそも、文法や単語について、英語のネイティブ講師が説明することはナンセンスだと私は思っています。中学レベルの文法と単語を完全にマスターしていない人に対しても文法を英語で説明して理解できると英語業界が考えてきたのはおかしなことです。

 例えば、文法の基礎である「三人称単数現在形のs」の説明を考えてみましょう。読者の皆さんもちょっと画面から目を離して、「三人称単数現在形のs」を英語でどう言うか考えてみてください。

 「三人称単数現在形」は英語では「Third person singular present tense」となります。この中のsingularですが、英語教材で知られるアルクの単語レベルで言えば、レベル5(大学受験前に覚える英単語)です。当然中学レベルの学習者は知らないでしょう。一方で「三人称単数現在形」という文法は中学1年のレベルです。ここに矛盾があります。文法を英語で説明しようとすること自体が学習のステップ論として成立しないのです。 

 また、文法については成人なら恐らく一度は日本語で文法のための単語もルールも学習しています。そのような人が、文法を英語で習うと、次のような複雑怪奇な学習プロセスを経ることになります。

「英語での文法説明のリスニング」
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「英語での文法説明の日本語化」
    ⇓
「英語での文法説明の日本語訳と、既習の日本語での文法説明との突合」
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「文法自体の理解」
    ⇓
「文法自体の暗記」

 上記のようなプロセスを実現するのは非常に困難だと思います。正直に言えば、私の場合、英語のネイティブ講師から文法の説明を受けても全く定着しませんでした。その場ではおぼろげながら理解しても、脳に暗記する余力がなく自宅で文法の復習もできないからです。

 ですから、初級者であればあるほど、まずは英会話レッスンとは別に、中学レベルの文法と単語をきちんと学習し直しましょう(自主学習での中学レベルの文法と単語の復習については「もともと英語は苦手という人が、最初にすべき学習とは?」を参照してください)。

 また、文法を学ぶことができるスクールやスマートフォンで学べるアプリもたくさんあります。このように中学レベルの文法をマスターした後に英語のネイティブ講師との英会話レッスンをすべきだと思います。

 とは言うものの、Aさんの場合にはすでに英会話レッスンを始めているので、英会話レッスンと同時並行でよいので一気に中学レベルの文法と単語をきちんとやり直しましょう。きちんと計画を立ててやれば3~6カ月で十分可能なはずです。

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