前回に続き2022年7月7日に実施したTORAIZ語学研究所主催セミナー「国際ルール作りへの積極的参加が、未来の日本の競争力を決める~その意義と課題・人材育成の必要性とその方法~」での模様をお届けします。トライオン代表の三木雄信氏のファシリテーションのもと、多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授 市川芳明氏と公益財団法人日本サッカー協会専務理事 須原清貴氏が、交渉の場で求められる具体的なスキルや人材育成について語っていきます。

前編・国際ルール策定に積極的参加を~日本が競争力をつけるには

交渉力や発想力を持った人材や組織をいかに作っていくか

TORAIZ三木雄信氏(以下、三木):語学力はベースとして必須だとしても、その上に交渉力、発想力が必要で、なおかつ誠実にクレジット(信用)を積み上げていくことで、さらに交渉力が高まっていくということだと思います。ただ、交渉力、発想力を身に付けることと同時にクレジットを積み上げられるような人材を育成することは、難しい部分もあるように思います。今の日本でそのような人材、組織を作っていくためには、どうすればよいでしょうか。これは大事なポイントなので、ぜひお話しいただければと思います。

オンラインセミナーの模様。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・市川芳明氏(中央下)、公益財団法人日本サッカー協会専務理事・須原清貴氏(左上)、トライオン代表・三木雄信氏(右上)
オンラインセミナーの模様。多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・市川芳明氏(中央下)、公益財団法人日本サッカー協会専務理事・須原清貴氏(左上)、トライオン代表・三木雄信氏(右上)

多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授 市川芳明氏(以下、市川):私の分野で言うと、専門ファームが必要だと思っています。ちなみに須原(清貴)さんがおっしゃった誠実さ(※)は私も大賛成で、日本がリーダーシップを取るにあたってはそこが強みかなと思います。

(※編集部注:前編での須原清貴氏の発言を受けて・国際ルール策定に積極的参加を~日本が競争力をつけるには 参照)

 私が取り組む分野の中にも、ヨーロッパとアメリカがぶつかっているような分野がありますが、そういうところは日本が議長に就きやすいのです。日本に任せておけば、あの人たちは正直者だから、あまりに極端なことはしないだろうと。してもいいのですが、そう思われていることは非常に大きなメリットでありアドバンテージです。ですから、日本人は比較的フェアで、みんなのことを考えてくれている人だという印象は非常に大事にしていきたいと思います。

 そのようなことを前提に置きながら、プロフェッショナルスキルを持った人を育てる組織が必要です。外国にはそういった組織が既にあります。イギリスには、BSI(英国規格協会)という組織があり、全世界に何千人もの社員がいて日本にも支社があります。ドイツにもDIN(ドイツ工業規格)という有名な組織がありますし、アメリカにはNIST(米国立標準技術研究所)、フランスにはAFNOR(フランス規格協会)というものがあります。

 どこもみんなしっかりした財務基盤を持って、一部国の役割を任せられます。国際的に標準提案するためにはWTO(世界貿易機関)との関係があるので、政府の後ろ盾が必要になりますが、その手続きを取るのも大変な手間がかかるので、民間組織でありながら、その一部を任されているのです。その中で若い人からベテランに徐々に移行していく間のオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)をきちんとしていけることと、国からも企業からも依頼を受けて動くプロフェッショナルたちを育てていけば、一部のラッキーな人は企業に引き抜かれ企業側の知財本部の部長さんになるというようなキャリアパスもあります。そのような組織が日本には、どうしても必要です。正直言って、日本だけそのような組織が存在しないので、今は作っていくための活動をしている最中です。あと1年ぐらいで設立できないだろうかというのが、私の今の夢です。

三木:須原さんは、いかがでしょうか。

日本サッカー協会専務理事 須原清貴氏(以下、須原):ビジネス現場の目線から申し上げると、戦略的・体系的に捉えた上で人材育成する仕組みや機関は、私の知る限り日本にはないのが現状です。この環境の中で若い方々がこれからどのように自分自身に磨きをかけていくかというと、自分で頑張るしかありません。もしくは突然変異で何かが出てくるかというのが、今の状況だと思っています。市川先生がおっしゃっているような、組織立ったアプローチには私も期待しておりますし、何とかそういったものができないかと、必要に応じてお手伝いできることはないかと思っています。

 しかしながら現時点では、組織や個人が不十分ながらも、与えられた環境を受け入れて、プロフェッショナルとして戦わなければなりません。個人をベースにしたときには、まず自分自身で必要なスキルセットを身に付けるべきでしょう。交渉学については米ハーバード・ロースクールが基本となるプログラムを作っています。日本では日本説得交渉学会が出来上がり、理事長でもある慶応義塾大学法学部の田村次朗先生は、高校生や中学生にもリーダーシップの基本要素になる交渉学を学んでほしいと啓発活動をされています。こうした育成の動きにもぜひ着目していただきたいです。

次ページ 英語、プラスアルファの言語も