英語、プラスアルファの言語も

須原:言語については、英語は必須です。会議の中で得られる情報は、確かに交渉にあたって非常に重要ですが、実は本当に重要な情報は会議の外で得られるものです。どういうときかというと、一緒に食事をしてお酒を飲んでいるとき。そういうときにこそ、生きた良い情報が現れます。そのためにはきちんと使えるだけの英語力が必須であり、願わくば、英語プラスアルファ、もう1つ語学に精通しているとアドバンテージがあります。

 私は英語には不自由しません。でも私は英語と日本語しかできないのです。ですから、ディスアドバンテージはないのですがアドバンテージもありません。例えば、私がスペイン語やフランス語などの他の言語も話すことができたら、サッカー界における私のアドバンテージはものすごく大きくなり、得られる情報、問い掛けができる人たちは格段に広がります。皆さんには英語プラスアルファの習得をお勧めします。

 最終的には市川先生がおっしゃった通り、OJTです。私はスポーツの世界で色々な交渉をさせていただいていますが、これをどこで培ったかといえばビジネスの世界です。ビジネスの世界で得た交渉力には汎用性があります。コピーが可能です。厳しい交渉の中に身を置いて、さまざまな成功体験と失敗体験を繰り返すことが重要です。従って、企業、組織の人事担当の方には、ぜひ若い世代に、ある程度のセーフティーネットを用意した上ではありますが、修羅場をどんどん体験させてほしいと思います。それが、将来のその人の成長にもつながるし、組織および日本の成長にもつながると思います。

国際ルールを作るにはどのくらいのレベルの英語力が必要か

三木:国際ルールづくりには、教育の機会が与えられるような場が必要であり、実際のOJTが大事だとお二人にお話しいただきました。交渉力に関して、英語ではTOEICやCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)という「CAN-DOリスト」を集約した一定の評価の枠組みがあって、英語力が可視化できるようになっています。

 具体的にどのくらいの英語力があれば、国際ルールを作るレベルの交渉力を身に付けられるのでしょうか。可視化した人材像について教えてください。

市川:英語の検定レベルで高い点数を取るのは最低限必要で、あのくらいできなくてどうするという側面があり、必要条件ではあっても決してそれだけでは十分ではありません。国際の場で交渉力がある人は、もちろん英語ができないとは言いませんが、フランス人が英語をしゃべっていると半分フランス語になっていたり、インド人であれば舌を巻いた発音が多かったり。先日久々にオーストラリア人の発言を聞いたところ私はほとんど理解できなくて、後で録画を見返して議事録を作ったほどAussie(オージー:オーストラリア英語)でなまっていました。しかし、彼らはそういうことを、あまり気にしていません。意思が伝わればいいのだというのです。

 そこは、日本の英語教育であまり重視されていません。英文法が駄目とか、単語がプアだということはどうでもよいというのは言い過ぎですが、言いたいことが相手に伝われば現在形と過去形を間違えようが、複数と単数を間違えようが、実はあまり大した問題ではありません。ヨーロッパやアメリカでは、子どもの頃からディベートの訓練をしていてベースがあります。ですから、日本の人たちは日本語でも構わないので、小学生ぐらいからもっとディベートの訓練をしたほうがいいのではないかと思っています。その辺の能力は、すごく大事になるかと思います。

三木:須原さんは、いかがでしょう。

須原:市川先生がおっしゃっていることに、大いにうなずいていました。英語のレベル感で申し上げると私のTOEICは970程度のスコアなので、英語で不自由を感じることはありません。ですが、日本サッカー協会における国際舞台での「ザ・ベストネゴシエーター」は、私ではなく会長の田嶋幸三です。ご自身も認めていますが、彼はネイティブのように流暢にお話しされるわけではありません。でも、ザ・ベストネゴシエーターです。

 田嶋は、相手のポジション、何を望んでいるか、どのようなことを提示すべきなのか、ひょっとしたら嫌がられるか、多くの情報を駆使しながら常にコミュニケーションをしています。ですから、英語そのものは決して流暢ではないものの、肝になるところは100%理解して交渉されているので、必ずきちんとした結果、すなわち日本にとって良い結果だけではなく、世界のサッカー界にとって良い結果につなげられているのだと思います。そういった意味で、言葉については市川先生がおっしゃる通りだと思って聞いていました。

 交渉の基本はディベートですね。もっと日本は小学校、中学校、高校の時代からディベートをやるべきだと思います。ちなみに私が大学時代に所属していたのは、先ほどお名前を挙げさせていただいた慶応義塾大学の田村次朗先生のゼミですが、年がら年中ディベートをするゼミでした。法学部法律学科のゼミなのに、ずっとディベートしていました。そこは非常に大きな力になるかと思いますので、人材育成の中でお使いいただけたらと思います。

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

三木:お二人の話を総合すると小学生など早い段階からディベートを訓練していき、さらに組織でOJTを進めていく中で、セーフティーネットを張りながらきちんと経験を通じて評価していくことが重要なのだと思いました。ありがとうございました。

市川 芳明氏
多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授
1979年東京大学工学部機械工学科卒業、日立製作所エネルギー研究所入社。ロボティクスおよびAI(人工知能)分野の研究に従事。その後、情報グループ環境ソリューションセンタ長、本社地球環境戦略室主管技師長、研究開発グループチーフアーキテクト室長、同グループ技術顧問、知的財産本部国際標準化推進室主管技師長を務め2020年4月退職。東京都市大学環境学部客員教授。一般社団法人サステナブルビジネス研究所代表理事。IEC TC111(環境規格)前議長、ACEA(環境諮問委員会)日本代表、およびISO TC268/SC1(スマートコミュニティ・インフラストラクチャ)の国際議長。工学博士、技術士(情報工学)。
須原 清貴氏
公益財団法人日本サッカー協会専務理事
ボストン・コンサルティング・グループ東京事務所コンサルタント、CFOカレッジ代表取締役社長、GABA取締役副社長兼最高執行責任者(COO)、キンコーズ・ジャパン代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)、ベネッセホールディングス国内英語カンパニー長、ベルリッツ・ジャパン代表取締役社長、ドミノ・ピザ ジャパン代表取締役兼COOを経て、2018年3月より現職。

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