ブルームの2シグマ問題

 1984年に、アメリカの教育学者ベンジャミン・ブルームが「2シグマ問題」を提唱しました。単純な一斉授業に対して、個別最適化したマンツーマンレッスンを行うことで95%以上の人が単純な一斉授業の平均を超えることができる。つまり個別最適化したマンツーマンレッスンの方がはるかに効果的というものです。(※4)

縦軸は生徒数、横軸は達成度を表す。(1)は従来型の1対30の一斉授業(Conventional)、(2)は1対30でありながら次の段階を学ぶ前に前の段階を習熟してから進む「習熟学習」(Mastery Learning)、(3)は1対1の「個別授業」(Tutorial)とで比較。個別授業が高い達成度を示した生徒が多い結果となった
縦軸は生徒数、横軸は達成度を表す。(1)は従来型の1対30の一斉授業(Conventional)、(2)は1対30でありながら次の段階を学ぶ前に前の段階を習熟してから進む「習熟学習」(Mastery Learning)、(3)は1対1の「個別授業」(Tutorial)とで比較。個別授業が高い達成度を示した生徒が多い結果となった

 私は、このブルームの2シグマ問題は、この数年の日本の子供の塾業界にも見られると思います。子供の塾は大きく2つに大別することができます。それは、一斉授業を行う集団塾とマンツーマンの個別塾です。

 総務省・経済産業省の2020年経済構造実態調査によると、塾業界は1.1兆円産業で、2020年の成長率は5%と、少子化が進む中でも成長しています。しかし、その成長のほとんどは個別塾の成長によるものなのです。

 これは、少子化が進む中でよりお金をかけてでも成果を追求したいという親が増えたからだと私は思います。このように日本の子供の塾の市場の傾向からもブルームの2シグマ問題は実証されていると私は考えます。

メリルの第一原理

 「メリルの第一原理」は、インストラクショナルデザインの世界的権威であるユタ州立大学教授のM・デイビッド・メリル氏が過去のインストラクショナルデザインの研究を集大成し提唱したものです。メリル教授はTORAIZ語学研究所のフェローとして指導していただいています。

 「メリルの第一原理」によると、優れた学習・研修デザインは「課題志向」「活性化」「例示」「統合」「応用」という5つの要素を備えるべきだとされています。

(1)課題志向
学ぶコンテンツを学習者が実際に直面している、または直面する可能性の高い課題の解決に役立つものから逆算して設定すること。

(2)活性化
過去の自分自身の知識や経験を活用し、学びとひも付けること。

(3)例示
学習したことが活用されている具体的な事例を示すこと。

(4)統合
学んだことを実務で使い、深く広く定着させていくこと。

(5)応用
学んだことを使ってみてフィードバックを受けながらさらに理解・活用していくこと。

 私自身、学習プログラムについてメリル教授に相談することがあるのですが、このメリルの第一原理を要約した「tell me,show me,let me do it.」というフレーズを何度も聞いたことがあります。

 実は、このメリルの第一原理に似たことを言った人がいます。それは、旧日本海軍の連合艦隊司令長官だった山本五十六です。山本五十六は、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」という人材教育論についての名言を残しています。ほぼメリル教授の言葉とかぶると私は思います。

 このことからも本当に役に立つ教育論というものは、洋の東西を問わず普遍的に共通なのだと感じます。また、軍隊での実践的な使える知識や態度を身につけることを目的として始まったインストラクショナルデザインと同様に、軍人としての山本五十六の経験から、その名言が生み出されたことにも共通点を感じるところです。

 さて、今回はこのようにインストラクショナルデザインについてご説明しました。次回は、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインが実際の英語学習でどのように適用されるべきかをご説明したいと思います。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)
※1 熊本大学教授 鈴木克明氏 インストラクショナルデザイン―学びの「効果・効率・魅力」の向上を目指した技法― https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/13/2/13_110/_pdf
※2 米インディアナ大学教授 マイケル・モレンダ氏 In Search of the Elusive ADDIE Model http://www.damiantgordon.com/Courses/DT580/In-Search-of-Elusive-ADDIE.pdf
※3 米・北コロラド大学教授 ナダ・アルドビー氏 ADDIE Model http://www.aijcrnet.com/journals/Vol_5_No_6_December_2015/10.pdf
※4 教育学者ベンジャミン・ブルーム氏 The 2 Sigma Problem: The Search for Methods of Group Instruction as Effective as One-to-One Tutoring http://web.mit.edu/5.95/readings/bloom-two-sigma.pdf
まずは会員登録(無料)

有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。

※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。

この記事はシリーズ「その英語学習法、間違ってます!」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。