この連載では、英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」の約7000人の受講生のデータと学習工学(Instructional Design)に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。

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 今回は、前回の回答の続きをお届けします。グローバル人材育成研修の担当になった家電メーカー勤務のKさんのご質問で、「研修設計担当者として、第二言語習得理論とインストラクショナルデザインの違いを知りたい」というものでした。

 第二言語習得理論については前回ご回答した通りです。

(前回記事・母語以外の言語をどう学ぶ? 「第二言語習得理論」とは

 今回は、インストラクショナルデザインについて説明をしたいと思います。

 日本のインストラクショナルデザイン研究をけん引してきた熊本大学の鈴木克明教授は、「教育活動の効果・効率・魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセス」とインストラクショナルデザインを定義しています(※1)。その研究対象は当然ながら英語に限ることなく、あらゆる教育の分野を対象としています。また、日本語では教育工学と訳されています。

 インストラクショナルデザインは、第2次世界大戦中に軍隊での効率的な教育を行うために主に米フロリダ大学で研究が始まったといわれています。適用対象が戦争ですから、工学的アプローチの極めて実践的なものでした。実務では使えない学問や知識とは違います。

 では、インストラクショナルデザインの主要な理論がどのように発展してきたかを説明していきます。「ADDIEモデル」「ブルームの2シグマ問題」「メリルの第一原理」の3つを見ていきましょう。

5つのプロセスの学習プログラム「ADDIEモデル」

 ADDIEモデルは1970年代半ばに米軍のためにフロリダ州立大学の教育技術センターが開発したモデルが原型といわれています(※2)。

 ADDIEモデルは、インストラクショナルデザインの分野で最もよく使われるモデルの一つで、学習プログラムの開発者が効果的なプログラムを生み出すためのガイドとなるものです。学習のプログラムを次の5つのプロセスに分解して組み立てるモデルで、これらの5つのプロセスの頭文字をとってADDIEモデルと呼ばれています(※3)。

学習のプログラムを5つのプロセスに分解して組み立てるADDIEモデル。「Analyze」「Design」「Develop」「Implement」「Evaluate」の頭文字を取っている
学習のプログラムを5つのプロセスに分解して組み立てるADDIEモデル。「Analyze」「Design」「Develop」「Implement」「Evaluate」の頭文字を取っている

(1)Analyze(分析)
プログラム開発者は、学習プログラムの前提となる学習目標を定め学習者の現状を調査し把握します。また、学習進捗を測定する尺度などを定めます。

(2)Design(設計)
プログラム開発者は、学習プログラムを分析した結果に基づき体系的に設計します。

(3)Develop(開発)
プログラム開発者は、設計に基づき具体的な教材を開発します。現在では、動画やスマートフォンのアプリケーションも一般的となっています。

(4)Implement(実施)
プログラム開発者は、実際にプログラムを実施する講師に対して学習目標や教材の使い方、評価方法などについて共有し、プログラムを実施します。

(5)Evaluate(評価)
プログラム開発者は、学習者が学習目標を達成したかだけでなく、分析から実施までの各ステップにおいて目標を達成したことを確認し評価します。

 ADDIEモデルは、プロジェクトマネジメントやPDCAの考え方に極めて近いものであると私は考えます。ビジネスパーソンにとっては当たり前なプロセスにも思えるでしょう。

 一方で日本の一般的な学校教育や企業研修の考え方とは違う点もあります。それは、プログラムの開発者が学習プログラムの実施成果まで全て責任を負っているということです。日本では、学習プログラムの実施成果は、学習者の能力・意欲・努力によるとされています。つまり、学習プログラムの開発者や学校の先生は結果責任を基本的に問われることはありません。これは学校教育で顕著ですが、企業研修においても同じような傾向が見られます。

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