(写真:PIXTA)
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 英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」を運営しているトライオン代表の三木雄信です。この連載では、TORAIZの5000人を超える受講生のデータと学習工学に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。コメント欄でビジネス英語についてなんでもご質問ください。

 それでは今回も質問にお答えしていきたいと思います。

[今回の質問]

IT企業勤務 Tさん(26歳)

最近は、人工知能(AI)の発達に伴い、機械による翻訳の精度も飛躍的に向上してきています。このことから考えると、英語学習のために貴重な時間とお金を費やすのは無駄な気がして英語学習に全く身が入りません。本当は、いまさら英語学習をするのは無駄なのではないでしょうか?

[回答]
 これは最近よく受ける質問です。漫画にあるように、何かを食べたり使ったりするだけで、その瞬間から英語が聞けたり話せたりするようになるとすれば本当に素晴らしいですよね。

 結論を申し上げますと、AIの発達を考慮すれば、半分はYESで半分はNOです。

 まず、中学レベルの文法と単語が身に付いているのであれば、リーディングとライティングについての学習は不要、AIを活用しながら実務を行う中で語学のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で学習すれば十分です。

 しかし、ビジネスパーソンとしてのリスニングとスピーキングを前提とした口頭でのコミュニケーションについては、今よりも重要になるので、英語学習は必須と私は考えています。言い換えると「文字ベースでの翻訳は人工知能で可能、そのため従来は非英語で集積された知的資産の英語化が進み、結果として英語での知的資産集積はますます拡大する。一方で口頭での通訳は人工知能では当面は難しい」ということになります。

 私がこのように考える理由について、まずAIにも2種類あることから説明したいと思います。それは、「特化型AI」と「汎用AI」です。

 「特化型AI」の代表は、米グーグル傘下の英国の人工知能企業ディープマインドが開発する囲碁AI、AlphaGo(アルファ碁)です。2017年5月27日には、世界で1位の格付けを持っていた柯潔(か・けつ)氏に勝利し、AIが人間を上回ったとしてその後のAIブームの火付け役になりました。非常に画期的なことではありますが、AlphaGoは碁に特化したAIです。チェスをしたり、車を運転したりすることはできません。

 これに対して、人間並みかそれ以上のあらゆる事象を認知したり判断したりする処理能力を持つとされるのが「汎用AI」です。まだ実現していませんが、コンピューターの処理能力の向上は著しいので、いつの日か、汎用AIが実現する日が来ると私も思います。ただ、その実現時期については、意見が分かれています。

 例えば、AI研究の権威であるレイ・カーツワイル氏らの予想では、汎用AIの実現は、2045年ごろです。また、未来学者のマーティン・フォード氏は、2018年に出版した著書『Architects of Intelligence』で、著名AI研究者23人への「何年までに汎用AIが50%の確率で実現されると思うか」という質問への回答をまとめています。この23人の研究者の予想はばらつきが大きいものでしたが、彼らの回答の平均値は2099年でした。

 意見は分かれていますが、いずれにしてもまだ少し時間がかかりそうです。

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