英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」を運営しているトライオン代表の三木雄信です。この連載では、TORAIZの5000人を超える受講生のデータと学習工学に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。コメント欄でビジネス英語についてなんでもご質問ください。

 それでは今回も質問にお答えしていきたいと思います。

[今回の質問]

中堅メーカー勤務 Eさん(48歳)

私は海外旅行が趣味で、仕事にも役立つかもしれないと思い、英会話教室に週1回通い始めてもう3年になります。しかし、いまだ英語が話せるようになりません。今後、どのくらい通えば英語をマスターできるでしょうか。

[回答]
 結論から申し上げると、このペースでは英語習得まで最低でも17年以上かかる可能性が高いでしょう。英語が話せないまま終わる可能性もかなりあります。びっくりされたかもしれませんが、これが現実です。

 Eさんは、英会話教室でのレッスンを毎週1回、1コマ1時間と仮定し、お盆と正月だけは休むとすると、1年間で50時間、英語学習をすることになります。3年間通っているとのことですから、これまで150時間の学習をしてきたことになります。しかし、それでは圧倒的に学習時間が不足しています。

 TORAIZ語学研究所による全受講生の分析によれば、一般的な日本の英語学習を受けてきた人が、ビジネスにおいて口頭による英語を使ったコミュニケーションが最低限できるレベルになるためには、平均で1000時間が必要です。もちろん受講生の中には、英国ピアソンが行っている英語のスピーキング力テストVERSANTのスコアで30点からスタートし、半年で500時間ほどの学習により49点に急上昇する人もいます。ただ、まずは平均的な所要時間を前提として学習計画を立てることが必要だと私は考えます。

 より詳しく、データに基づいて説明しましょう。このチャートは、TORAIZの全受講生のVERSANTテストの平均値を時系列で示しています。

※総受験数(n):28,292回
出所:TORAIZ語学研究所 更新日:2021.3.15

 このチャートの横軸は学習時間で、縦軸がVERSANTのスコアです。受講生のスタート時のVERSANTスコアの平均は37点強です。38点が日本のVERSANT受験者の平均点(2018年、ピアソン調べ)ですから、TORAIZの受講生も平均的なレベルがスタート地点ということになります。このチャートによれば、そこから1000時間で47点弱まで伸びていることが分かります。

 47点弱は、ピアソンによればCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)でB1レベルに当たり、「身近な事柄において伝えたいことの要点を包括的に述べることができる。構文や語彙の選択、もしくは修正のために途切れることが多々あるが、おおむね包括的に話し続けることができる。時々外国語特有のなまりが出ることや発音のミスがあるが、発音は理解可能である。予測可能な状況では、主要な、使い慣れている語彙や構文をほどほどの正確さで使うことができる」という英語力です。

 これは、英語で仕事をする最低限のレベルだと思います。このレベルであっても、自分の担当する業務の範囲内でプレゼンテーションをして、その後の1対1での英語の質疑応答をこなすことが基本的にはできると思います。仕事のシチュエーションとしては、海外の企業を相手にプロダクトをプレゼンテーションして売り込むことなどが想定されます。質問者のEさんが言う「英語をマスター」するレベルがこのレベルであれば習得するまでに1000時間が必要ということになります。

 もし多人数で議論をしている英語のネイティブスピーカーの間に割り込んで自説を述べるというレベルになると、VERSANTスコアで47点弱では不足です。このようなシチュエーションに対応するには、VERSANTスコアで58点弱が必要です。現在は、日本でも経営幹部に英語話者が多数いるという会社も増えてきていますが、このような会社では58点弱が必要とされてきています。もしこのレベルを目指すのであれば、平均的な日本のビジネスパーソンの場合、1000時間の英語学習では足りないのが実情です。

 日本語のネイティブスピーカーが英語を学ぶのに必要な時間に関する大規模な調査に基づく研究結果は、TORAIZ語学研究所以外にはほぼないのですが、英語のネイティブスピーカーが他の言語を学ぶことに関する研究はあります。

 一番有名なものは、米国務省の付属機関で、外交官などを養成するFOREIGN SERVICE INSTITUTEの研究結果です。英語のネイティブスピーカーが日本語を学ぶパターンの研究ですが、逆もまた真なりで日本語のネイティブスピーカーが英語を学ぶパターンの傍証としても使えると思います。それは、文字・語彙・文法の違いから生まれる言語間の距離という観点では同じだからです。

 この研究によれば、日本語は、「Super-hard languages」とランクされており、一般的な米国人の成人が日本語を習得するには2200時間の教室での学習が必要とされています。米国のトップレベルの人が最高レベルの学習プログラムを受講してこれほどかかるのです。日本人が中学・高校で学習指導要領に決められた通りに1000時間前後学んでも英語が話せないことは、当然とも言えます。

続きを読む 2/2 「誰もが短期間でマスターできる学習法」は存在しない

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