このSusan Oyamaの実験により、大人になって英語の発音を矯正することは非常に難しいことが分かりました。では、発音とは関係なく、自信を持って英語で社内会議に臨むために必要なことは何でしょうか。
私が運営している英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」では、「とにかく発音はいったん忘れましょう。」と話しています。しかし、Nさんのようにどうしても発音を良くしたいという方もいらっしゃいます。そのような方には特殊な矯正方法を行うこともあるのですが、その前に基本的なことを2つ実施していただきます。
発音よりも重要なシラブルとイントネーション
1つ目は発音記号をきちんと理解することです。「いや、当然だろう」と思われる人も多いと思いますが、発音記号を正規の英語学習プログラムとして学んだことがない人も多いのです。おそらく、学校の先生が発音記号と対応した正しい発音を再現することが難しかったからだと思います。そのような方に発音記号のテキストとしてお薦めしているのが「発音記号の正しい読み方」(昇龍堂出版、中村駿夫著)です。初版は1959年と大変古い本ですが、32ページと非常に薄く内容も平易で安価です。
この本では、非常に簡潔かつ明快に全ての発音記号の発音が口の形を示す図で解説されており、辞書で発音記号を見るだけで発音がイメージできるようになります。まずこの本をマスターすることが発音矯正の第一歩となるはずです。
2つ目はシラブルとイントネーションについて徹底して矯正することです。英語の音声には発音とは別にシラブルとイントネーションがあります。ともすると発音ばかりに注意がいきますが、英語のネイティブスピーカーにとって英語らしく聞こえるためにはむしろ発音よりも重要かもしれません。
シラブルとは英語の音の単位です。日本語の場合では拍数に当たります(厳密に言えばシラブルと拍数は違うものですが、ここでは簡略化のため英語のカタカナ表記と拍数を使って説明します)。例えば「Local」という英単語の発⾳(特にアメリカ英語)を聞いたままにカタカナで書くと「ロコ」に近く拍数は2拍となります。英語のネイティブスピーカーには、日本人が思う「ローカル」という発音より、「ロコ」の⽅がより英語らしく聞こえるはずです。それは、「ロコ」は2拍である一方、「ローカル」は4拍になってしまい拍数が異なるからです。これは、⽇本語では⺟⾳ごとに1拍となり、全ての拍が同じ⻑さで、⻑⾳(ローカルの「ー」の部分)も同じ⻑さの1拍となることから来ています。
イントネーションも非常に重要です。例えば、同じセンテンスであっても文末でイントネーションを上げるのか、下げるのかによって肯定文と疑問文に意味が分かれます。つまり、文法と同じくらいイントネーションも重要なのです。日本語の単語や文章を英語のネイティブスピーカーが発音すると必ず日本語と異なるイントネーションがついてしまいます。それほど、英語のネイティブスピーカーにとってイントネーションは本質的な要素なのです。
ここでノンネイティブの英語の良い例としてソフトバンクグループの孫正義会長兼社長を取り上げたいと思います。YouTubeなどにも動画がありますから探してみてください。「Masayoshi Son」で検索すればたくさん出てきます。孫さんの英語は、発音は「カタカナ英語」ですが、シラブルとイントネーションは正確です。シラブルとイントネーションが正確な英語を身に付ければ、故スティーブ・ジョブズ氏やビル・ゲイツ氏とも自信を持って交渉できるのです。

まとめると、まずは英語発音の基礎である発音記号を短時間でマスターしましょう。同時に、シラブルとイントネーションに気をつけて日ごろの英語学習を行い、英語力全体を伸ばしていくのがよいと考えます。
自分の言いたいことが言えるようになって、それでも発音を直したい場合にのみ発音矯正を行うのがよいでしょう。発音だけにこだわっていては、ずっと英語が話せないままになる可能性が高いからです。
上記のような順番で学習していくことが、一緒に働く人から「英語で仕事ができる人」と見られるようになる近道だと思います。
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