この連載では、英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」の約6000人の受講生のデータと教育設計学(Instructional Design)に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。コメント欄でビジネス英語について何でもご質問ください。

 今回は通常の連載と異なり法人の英語研修担当者の方からの質問を取り上げたいと思います。

 前々回の連載記事(※)で、効率的な学習・研修を追求するインストラクショナルデザインの世界的権威であるユタ州立大学のM・デイビッド・メリル教授が提唱した「メリルの第一原理」をご紹介しました。実は、「メリルの第一原理」は個人の英語学習者の方だけではなく、法人で英語研修のプログラムを組み立てる際にも大変参考になるものです。

 メリル教授には、「TORAIZ語学研究所」のフェローを委嘱し、特にTORAIZの中でも法人向けの英語研修プログラムのデザインを指導していただいています。その一環として、2022年2月に「研修効果を高め、ROI(投資利益率)を最大化する英語研修設計5つのポイント」を解説するウェビナーを、日本のグローバルカンパニーの研修担当者の方々に向けて開催しました。

 非常に多くの方に参加していただいたのですが、その中で出た最も普遍的と思われる2つの質問をご紹介します。「メリルの第一原理」を法人研修に適用する際のヒントとなればと思います。

[今回の質問その1]

法人の研修担当者Aさん
 学習のプラットフォームや環境は整備されているが、その環境やコンテンツをどう使うかは個人に委ねられている。そのため研修効果は、個人の学習デザイン力に左右されると感じている。会社全体で英語力を底上げするには、どのような工夫が必要か?

[回答]
メリル教授:難しい質問ですね。高校でどの科目を実施するかを生徒が選択できるようにすることはいいことですが、組織が仕事のために社員に英語力を身に付けさせたい場合には、学習者に何を学びたいかを選ばせることは適切ではありません。求められるスキルはこれだと示して、それを学ばせる必要があります。

例:営業部門のビジネスパーソンであれば、まず英語でのプレゼンテーションと質疑応答のスキルを学ぶべきであり、TOEIC L&Rで900点を目指すプログラムを選ばせるべきではないということ。

メリル教授:インストラクションの第一原理は、さまざまな種類のスキルに対して効果的で効率的で魅力的な学習を促進する特定の種類の戦略があるとしています。学習戦略がスキルと合っていれば学習は促進されますし、合っていなければ促進されません。どのように学びたいのか、あるいはコースのどの部分を修了したいか、あるいはどの学習教材に取り組むかなどを学習者が完全にコントロールするのは、あまり効果的なインストラクションとはいえません。

 インストラクションの設計者も、どの戦略が特定のスキルの学習を最も促進するのかは分からないので、学習者が適切な戦略を選ぶ可能性はさらに低いといえるでしょう。

 あるスキルに対して適切なインストラクション戦略を実行するにはさまざまな方法があります。異なるアプローチのそれぞれが習得したいスキルに合った基本要素であるならば、学習者に選択させることも適切でしょう。

例:プレゼンテーションと質疑応答のスキルを学ぶためには、学習者の興味がある実際のTEDトークのプレゼンテーション動画を教材にシャドーイングを行うアプローチもあれば、英語講師に対して自分が実際に使うプレゼンテーションを行って質疑応答するアプローチなど、さまざまなアプローチが想定される。それらの中から習得したいスキルに合っているなら、学習者が自由に選択することに問題はない。