インプットのためのインプットは、これ以上するな!

 さて、自分自身のゴールの明確化はできたでしょうか。次は、現在の英語力を明確にして、そこから自分自身のゴールまでの橋渡しをするプログラムを設計します。ここでハイレベルな単語帳を買ったり、TOEICのハイスコアを目指したりする人も多いでしょう。

 しかし、ちょっと待ってください。ここで私が強調したいことは、中学英語の文法と単語が頭に入っていれば英語で会話はできるということです。これ以上の単語や文法のインプットは不要です。これが2番目に重要なポイントです。

 中学英語の文法や単語で話ができる例として、2021年1月20日、ワシントンで行われたバイデン大統領の就任演説を見てみましょう。米国の大統領の演説は、全ての米国人が理解できるように、どちらかと言えば平易で分かりやすい英語であることは間違いないのですが、一方で大統領としての威厳や説得力も必要ですから、ネイティブではない英語学習者が目指すイメージとしては十分だと思います。

(写真:ロイター/アフロ)
(写真:ロイター/アフロ)

 まず、単語から見てみましょう。ここで、まず基本単語としてOxford 3000を使いたいと思います。Oxford 3000とは、Oxford Advanced Learner’s Dictionaryが定義している、全ての英語学習者が知っておくべき3000語です。

 Oxford 3000は中学卒業レベルです。新学習指導要領によると小学校で600~700語程度、そして中学校では1600~1800程度の英単語を学習することになっており、中学までを合計すると2200~2500語を学ぶことになっています。

 あるテキスト(文章)において、Oxford 3000でどれくらいをカバーしているかは、Oxford Learner’s Dictionariesで簡単に調べることができます。

 このサイトのOxford Text Checkerにバイデン大統領のスピーチのテキストを貼り付けてボタンをクリックしてみましょう。すると、バイデン大統領のスピーチの89%は、Oxford 3000に含まれることが分かります(下の画像を参照)。

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 そして、単語レベル「未分類」に当てはまるUnclassifiedが6%ありますが、この多くは人名や地名などの固有名詞です。固有名詞は単語帳などで学ぶ語彙ではないため、Unclassifiedの単語をこの分析の分母から外すと、Oxford 3000で実に94.6%をカバーしていることになります。そして残りの5.4%の多くは、the Capitol dome(合衆国議会のドーム)などそのテーマに直結したキーワードや専門用語です。つまり、中学レベルの単語に自分の知っている固有名詞とキーワードや専門用語を加えれば、きちんとした英語を話すことはできるのです。

 文法についても見てみましょう。バイデン氏の演説で現在完了は何度も使われていますが、過去完了は、1回も使われていません。現在完了は中学3年生の範囲です。また、過去完了は高校で学ぶ範囲です。つまり、バイデン大統領のスピーチを見てみると、単語にしても文法にしても中学英語の範囲で、社会人として業務上必要なことを話すのは十分可能なのです。

 社会人が英語を業務上話すために、これ以上単語や文法を一般的な参考書などでインプットして積み上げる必要はありません。それよりも、自分のゴールに合わせたレッスンや実務のアウトプットのための事前準備を通じて、必要な単語やフレーズをその都度覚えていくことの方がよほど効率的なのです。効率的ではない「インプットのためのインプット」は、これ以上しないでください。

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