前回に続き、第2回は社会人がより効率的に英語を学ぶために重要なことを押さえておきましょう。ポイントは3つです。
なぜ英語学習に失敗するのか?
まず社会人の英語学習で最も大事なのは「自分自身のゴールを明確にしてそのゴールに沿った、個別最適化した自分だけの英語学習プログラムをデザインすること」です。自分だけのプログラムが明確になっていないのに、なんとなく本屋に行って平積みになっているベストセラーの英語の参考書を買ったり、知り合いが薦める英会話スクールに行ったりすることは絶対に避けなければなりません。それは自分自身のお金と時間の無駄遣いです。
なぜならば、社会人の英語学習には、ビジネス上の現実的なゴールがあるはずだからです。今ここで自分の英語学習のゴールが明確でない人は、英語学習の失敗が100%決まっていると言ってもいいでしょう。失敗したくない人は、このタイミングで英語学習のゴールを明確にしてください。ゴールのない学習の旅に出てはいけません。
英語学習のゴールは、学生ならば入試のためであることがほとんどでしょうが、社会人ならば海外赴任のため、学会発表のため、TOEICで800点獲得のためなどそのゴールは千差万別なはずです。実は、このように自分自身のゴールを明確にし、現在のレベルに合わせて一人ひとりに最適化した学習方法の方が、標準化された集団学習方法よりもはるかに効率的であることは、科学的な研究で明らかになっています。
ブルームの2シグマ問題
この研究は、「ブルームの2シグマ問題」と呼ばれ、米国の研究者であるベンジャミン・ブルームによって1984年に提唱されました。
この研究結果は、3つのグループの観察から見いだされたものです。第1のグループは教室での講義のみの学習方法、第2のグループも教室での講義に加えて習得度アプローチによって前の課題を習得しなければ次の課題へと進まない学習方法、3番目はチューターからの個別指導で学習する方法です。
結果は、驚くべきものでした。教室での講義のみの第1のグループよりも習熟度アプローチによる第2グループは、得点が標準偏差(σ=シグマ)の分だけ良くなり、第3の個別指導の学習方法のグループでは得点が2σ分良くなっていました。
言い換えれば、個別指導のグループではその98%が第1グループの平均よりも上の得点になります。
これは、英語の学習についても当てはまります。読者の皆さんの多くは、おそらく中学・高校・大学で教科書に基づいた教室での集団学習で英語を学んできたでしょう。社会人になってからは、英会話学校に通ったり、問題集を買ってTOEICの対策をしたりしたこともあるかもしれません。
しかし、その延長でさらに英語を学習することは無駄です。なぜなら冒頭に書いた通り、社会人は学習のゴールがそれぞれ異なるはずだからです。
「いやー、どう明確化していいか分からない」という人には、どのように明確化したらいいかというモデルも科学的に提唱されています。これは、1997年にロバート・メーガーが提唱した「学習目標のABCDモデル」と言われているものです。
Audience(観客):誰がその行動をするのか?
Behavior(行動):学習者は何ができるようになるべきか? その行動とは何か?
Condition(条件):どのような条件なら学習者がそれを実行できるか?
Degree(程度):その行動はどの程度できなければならないか? 習熟度はどの程度か?
例えば、私が運営する英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」では、英語を使って何をしたいのかをお聞きします。例えば医師の方が来られた場合であれば、自分自身(観客)で、「英語で学会発表をしたい」など実際のゴールについて動詞を使って(行動)語ってもらうのです。そして、1人でプレゼンテーションを見るなどしてどうすればその目標を実現できるか(条件)を明確にし、1分間で何ワードぐらいの速さで話す必要があるかなども明らかにします。
このように学習目標を明確にすることで、どのような英語教材をどのくらいやり込めばよいのかが初めて明らかになるのです。
(引用元)Writing Goals and Objectives If you're not sure where you are going, you're liable to end up some place else.
Robert Mager, 1997
自分自身でゴールを明確にすることができるならば、独学でも問題ありません。少なくとも、教室での集団講義形式よりも独学の方が効果的に学習することも可能でしょう。まずは、英語学習をする前に自分自身でゴールを「学習目標のABCDモデル」で確かめてみてください。そしてそのゴールに合った教材を選定するのです。これを最終教材と呼びます。ある意味、最終教材をマスターすることが自分自身の英語学習のゴールと言うことができます。
もし現在の自分自身の英語レベルでその教材に取り組むことができるならば、その教材を始めてかまいません。しかし、難し過ぎると感じた場合は、それよりも少し簡単な教材を探し、それを終えた後に最終教材に取り組んでください。このように現在の自分自身の英語レベルと最終教材とを接続するための学習プログラムをデザインすることが重要なのです。ただ、この作業は多様な教材の中から自分自身のゴールに合った内容やレベルを調べたり、使い方を考えたりするのがかなり大変です。そこで、TORAIZでは英語学習プログラムのデザインをコンサルティングしています。場合によっては、このようなサービスを利用するのもよいでしょう。
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