「英語が話せるようになる」ことは現在のビジネスパーソンが身に付けたいスキルの1つだと思います。「今度こそは英語が話せるように頑張ろう!」と書店で本を買い込んだり、英会話スクールに通い始めたりしても、結局三日坊主で本は積んでおくだけ、英会話スクールも欠席続きと挫折した経験がある人も多いでしょう。「英語が話せるようになる」までの道のりは大変険しいといわざるを得ません。
日本人はいったいどれだけ学習すれば「英語が話せるようになる」のでしょうか? この問いは日本人の英語学習者なら誰もが知りたいはずです。
そこで、まずは過去の研究に当たってみることにしました。私が運営する英語コーチングスクールTORAIZ(トライズ)には、科学的に第二言語習得理論を研究する語学研究所があるのですが、そこで調べてみると日本人が「英語が話せるようになる」までに必要な学習時間を実証的に一定以上の調査規模で行った研究は非常に少ないことが分かりました。特に、インターネットを通じた様々な学習方法が普及してからの研究は皆無に等しいことが分かりました。
今回、語学研究所では、「英語が話せるようになる」までの道のりを実証的に明らかにするために、「業務で日常的に英語を使って口頭でのコミュニケーションを行っている外資系ビジネスパーソンを対象とする英語学習に関するアンケート」を実施しました(調査委託先:マクロミル)。
まず、どのくらいの英語力を「英語が話せる」とするかを考えると、単純に海外との取引で英語を使って口頭でコミュニケーションできるレベルでは、今日の英語学習者が目指すゴール像としては低すぎると考えました。
現在は日本企業であっても実質的な英語公用語化の段階になりつつあります。実際、TORAIZで英語学習を検討されるほとんどの方は、日本企業がグローバル企業となっていく過程で英語学習の必要性を感じています。社外との取引だけでなく、日本企業であっても人事やシステム部門などの間接部門も含めて実質的に社内公用語として英語が求められる時代になってきているのです。
そこで、すでにグローバル企業として日本で事業を展開している外資系企業において、英語で口頭のコミュニケーションを行っていることを条件として、外資系ビジネスパーソンを調査対象とすることにしました。学習のゴールイメージとして最も適切と思われるからです。
本調査は、2021年1月29日~2月2日にアンケートを実施し、この条件に当てはまるビジネスパーソンをスクリーニングし、823人から有効な回答を得ました。
このアンケートの結果は、なかなかショッキングかつ示唆に富むものでした。
TOEICは700点でいい
まず、私たちは条件に沿ってスクリーニングした外資系ビジネスパーソンであっても自らの英語力に満足しているかを調べる必要があると考えました。外資系ビジネスパーソンは英語力だけでなく、総合的に評価されるため、純粋な英語力について十分な満足度があるか分からないと考えたからです。その結果は、満足している人は、48.6%と半数をわずかですが切るものでした。つまり、外資系企業ビジネスパーソンであっても半分以上の人は、まだまだ自分自身の英語力に満足していないということです。
次に、私たちは、そもそも外資系ビジネスパーソンには英語学習に関して特別な環境があり、その結果、英語を習得することが容易だったのではないかという仮説を持っていました。そこで、「両親のどちらか、もしくは両方がネイティブの英語話者ですか?」という質問をしました。結果は、「Yes」と答えた人が22.1%とかなりの割合を占めました。
また、「生まれてから現在まで合計1年以上の海外での居住又は留学経験がありますか?」という質問に対しては、6割近い人が「Yes」と答えています。
つまり、両親のどちらも英語話者ではなく、海外での居住も留学経験もない人は、少数派ということになります。このことは、日本国内だけで一般的な英語教育を受けてきたビジネスパーソンにとってはかなりショッキングな内容ということができるかもしれません。
では、「外資系ビジネスパーソン」の英語力はどれほどなのか。日本国内でビジネスパーソンの英語力の目安として最も多く使われているTOEIC Listening & Reading Testのスコアで深掘りをしてみたいと思います。
まず、TOEIC Listening & Reading Testのスコアで700点未満の人が合計で3割弱いて、これらの人に700点以上800点未満の人を加えると全体の半分弱に達します。これは、外資系企業だからスコアが800点以上、900点以上の高得点者ばかりということではないことを意味しています。
現在、日本では、TOEIC Listening & Reading Testが多くの企業で入社や昇進・昇格のための基準として使われていることもあり、読者の皆さんもスコアをお持ちかもしれません。中には、「グローバルに活躍するためには、TOEIC のスコアはどれだけ取ればよいのか」「TOEIC を極めれば英語を話せるようになるのか」などと疑問を持っている方もいるでしょう。
そこで、さらにTOEIC Listening & Reading Testのスコアと満足度のクロス集計をしてみることにします。すると面白いことが分かってきます。
この分析から言えることの1つは、TOEIC Listening & Reading Testのゴールの目安は700点台だろうということです。600点以上700点未満では、自分の英語力について満足している人は、3分の1程度しかいないのに対して、700点以上になると、満足している人の割合が6割近くまで上昇することから分かります。
また、さらに高得点の層に注目してみると、実は950点未満までは自身の英語力に満足している人は、全体の6割前後と大きくは変わりません。言い換えれば、TOEIC Listening & Reading Testで700点を確保することができれば英語を使った口頭でのコミュニケーションをする素地は十分であり、それ以上のスコアを追求しても、英語を使った口頭でのコミュニケーションへの貢献はそれほど高くないということがいえると考えられます。
つまりTOEIC Listening & Reading Testのような「聞く・読む」からなるインプット中心の学習では、外資系企業で通用する口頭での英語のコミュニケーション能力を身に付けるまでに相当な学習時間が必要となってしまう、もしくは非常に困難ということがいえると思います。
実際、TOEIC Listening & Reading Testで950点以上を達成する人は極めて限られており、TOEIC公式サイトで提供されている「くらべるスコア」によればTOEIC Listening & Reading Testの受験者の1%未満しかいません。むしろ、TOEICのスコアがそこまで高くなくとも外資系企業における自分の英語力に満足している人が多数いることに注目すべきだと思います。
外資系企業で働くために必要な学習期間はどれぐらいか
では、次に自宅学習や英会話、留学などを含めて英語を集中して学習した期間について質問してみました。結果は一番のボリュームゾーンは「2年以上」の26%となりました。やはり、外資系企業で英語を使って働くまでには相当の英語学習の期間が必要であることは事実のようです。しかし、「3カ月未満」や「3カ月以上6カ月未満」も20%以上あります。そこでさらにクロス集計をしてみると、両親のどちらかが英語話者の人の場合、一番のボリュームゾーンが「3カ月以上6カ月未満」であることなどが分かりました。このことは、英語と関わる環境が、外資系企業で働くのに必要とされるレベルに達するまでの学習時間を左右する大きな要素の1つだということを示唆しています。
そこで、我々は、個人による環境の差を排除して、「TOEIC スコアが750点前後で英語がほとんど話せない知人からの質問」という想定をして、「外資系企業で働くためには、毎日3時間英語学習に取り組むとしてどのくらいの期間、英語学習に注力したら良いか」という尋ねてみました。
すると、「2年以上」や「3カ月未満」の極端な回答が減り「6カ月以上1年未満」の割合が顕著に増え一番のボリュームゾーンとなりました。これは、外資系ビジネスパーソンが自身で英語学習を経験してきた結果分かった、より効率的な学習方法や、自身の「両親のどちらかが英語話者である」といった特殊な環境要因を排除したりした上での回答と思われます。
また、「2年以上」という回答を24カ月と仮定した上で、回答数に応じて重み付けして平均的な学習期間を計算すると、12.03カ月になります。
つまり、一般的な環境で学習をしてきた、またはしているTOEICのスコア750点前後の日本人の英語学習者は、効率的に学習をしたとしても「外資系企業で働くためには、約1年かかる」ということが、この調査結果から分かってきたといえると思います。
最後に調査結果から分かったことをあらためてまとめます。
1つ目は、一般的な日本人の英語学習者が、外資系企業で働くことができるレベル(言い換えれば、実質的に英語が公用語化した日本企業であっても期待されるレベル)の英語力を身に付けようするならば、「TOEIC Listening & Reading Testでまずは700点以上を目指すべきだ」ということ。
2つ目は、上記のスコアを達成した後はTOEIC Listening & Reading Testのスコアに必ずしもこだわる必要はなく、「効率的な英語学習を行えば、1年後には外資系企業で働くことができる英語のレベルに到達することができる」ということです。
次回以降は、より詳細にどのような英語学習が日本のビジネスパーソンにとって時間と労力を最小化できる効率的な学習法かを探っていきたいと思います。ご期待ください。
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