この連載では、英語コーチング・プログラム「TORAIZ(トライズ)」の約6000人の受講生のデータと学習工学に基づき、最小の努力によって最短で英語の学習目標を達成するためのノウハウを受講生や読者の皆様からの質問に答える形でお伝えしていきます。コメント欄でビジネス英語について何でもご質問ください。
それでは今回も質問にお答えしていきたいと思います。
メーカー勤務 Tさん(25歳)
私は将来英語を使って仕事をする海外事業部門に異動したいと思っています。仕事で使える英語をマスターするためには、インプット学習とアウトプット学習のどちらが大事でしょうか。
[回答]
Tさん、非常によい質問ですね。結論を申し上げると「自分の課題を解決するための学習目標を明確にして、それを前提としたインプット学習とアウトプット学習の双方が必要」ということになります。
では、その理由を説明していきたいと思います。まず英語学習の科学的根拠として挙げられることが多い、第二言語習得理論の歴史的展開を追っていきたいと思います。
最初に米国の言語学者スティーヴン・クラッシェンが1970年代から80年代に提唱した「インプット仮説」からご紹介したいと思います(クラッシェン以下、どの提唱者も「仮説」としか言っていないことに注意)。
このインプット仮説は、第二言語を学ぼうとする学習者は、もし学習者が「i」というステージにいる場合、それより少しだけ難しい1を足した「i+1」に属する「理解可能なインプット」に接したときに第二言語の習得が行われるというものです。例えば、ほとんど知っている単語で書かれている記事で1つだけ知らない単語があると、学習者はその知らない単語の意味を類推することで、新しい単語を覚えることができるといったことです。
次に提示されたのがアウトプット仮説です。1985年、カナダの応用言語学者のメリル・スウェインは、クラッシェンの「インプット仮説」に疑問を投げかけ、第二言語習得においてはインプットだけでは十分ではなく、アウトプットも必要であるという「アウトプット仮説」を提唱しました。学習者は言語情報のインプットのみでは完全な文法的能力を獲得することはできず、話し言葉のアウトプットが必要とする説です。
最後にご紹介するのが米国の言語学者マイケル・H・ロングによって提唱されたインタラクション仮説です。この仮説は、1996年に公表した「The role of the linguistic environment in second language acquisition.」によって広く知られることになりました。ロングは、クラッシェンのインプット仮説に加えて、話者の間でのインタラクション(意味の交渉)が大事であると主張しました。
このように第二言語習得理論には様々な説があります。いずれも「仮説」なのはどの説が最も正しいかが証明されていないからです。ですから、どの説が正しいかの決着はついていないと私は理解しています。
次に学習全般を研究対象とした理論にまで範囲を広げて考えてみたいと思います。ここでご紹介したいのは、インストラクショナル・デザインをまとめた米国のM・デイビッド・メリルによる「メリルの第一原理」です。

インストラクショナル・デザインは、米国で普及している、学習を効率的にデザインするための方法論です。第2次世界大戦中、ノルマンディー上陸作戦に際して200万人以上に対して様々なスキルを短期間で実効性のあるものとして学習させるために開発されたことが始まりです。日本ではあまり知られていませんが、米国の公教育や企業研修では当然のアプローチ方法として広まっています。
ちなみに飛び級なども、学習の課題を達成したらそのプログラムは完了というインストラクショナル・デザインの考え方に基づいています。プロセス自体に意味があるとして何でも「〇〇道」としてしまう日本の考え方とは大きく異なることが飛び級からも分かると思います。
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